チョコふたかけ 1


 突然口の中に甘い香りが広がった。びっくりして隣を見ると、そこにはニッコリ笑ったヒロアキの顔。そして手には欠けたハート型のチョコ。じゃあ口の中のこれはやっぱりチョコ?!
「なんてコトするのよ!」
「は?」
 あ。ホントにわけが分かっていないって顔。

 私がヒロアキに選んだのは、スーパーでよく見るハート型のチョコ、80円。
 だって毎年"いまさら"って思う。ずっと隣に住んでいて、どっちが自分の家か分からなくなるくらい往き来していて、チョコも毎年あげていて。
 しかもヒロアキが、甘い物が嫌いなことも知っている。チョコで食べられるのはこの80円のだけって言ってたことも。
 綺麗な包み紙のチョコなんか、買ったって意味がない。美人で有名な麻美からでさえ、受け取らなかったんだから。本当もったいない。そりゃあ私だってヒロアキが好きなんだもの、ちょっとは嬉しかったけど。

 でも。でも。いくら嫌いだからって、この2月14日、女の子の口の中にチョコレートを放り込むなんて最低!
「知らないの? この辺りだか全国的にだか分からないけど、バレンタインデーにチョコレートを食べた女の子は、一生モテないってジンクスがあるのよ?!」
「へぇ」
「ヘぇじゃないわよ、どうしてくれるのよっ。80円のチョコのひとかけらで一度もモテずに死ぬかもしれないのよ? なんて寂しい人生なの!」

2へ


短編掌編 TOP