砂と水 4
ここで死ねばシェティアと一緒にいられるかもしれない。きっとシェティアも寂しかっただろう。
いや、違う。シェティアには砂色のドラゴンがいた。永きの間、一緒にいたに違いない。ドラゴンを見やる優しげな瞳を思い出した。それは俺を待っていてくれる人の微笑みを思い出させてくれた。
俺は行こう。俺があきらめた時点ですべてが終わるのなら、その時までは抵抗しようと思う。もし、あと一キロしか進めなくても、一キロ近づいて死ねることをシェティアに感謝しよう。
俺は水筒のふたを取った。一口だけ飲んで、残りを墓の上にかけた。ほんの少しの水が、砂の上で小さなシミを作る。からになった水筒を墓石の代わりに置いて、タオルをたたんだ。
ふと、水のシミが異常なほど成長しているのに気が付いた。墓を中心として、どんどん大きく広がっていく。わずかな水だけで、こんな広さになるはずはない。
その時。鼓膜が破れんばかりの大きな音と共に、まわりの砂がいきなり舞い上がった。目を閉じて手にしていたタオルで顔を覆う。強風のせいなのか、足を進めるどころか、足が地に着いているのかすら分からない。また幻覚か? でも、身体を包んでいるこの砂は本物だ。砂嵐? こんなに突然に? 息が苦しい。気を失ったら埋もれて終わりだろうと、必死で耐えた。
いきなり砂から放り出された。身体がほんの少し落下して、地表の砂に膝と手をつく。
後ろでまた大きな音が轟いた。振り返ったそこに砂色のドラゴンがいた。首を高く空に突き上げて放たれる雷鳴のような声に、大気が切り裂かれていく。ただ、目の前で巨大なドラゴンを見上げ、耳をつんざくような咆哮を聞いても、不思議と恐怖は感じなかった。
ドラゴンは羽を広げ、大きく羽ばたいた。その翼の起こす風でまた砂が舞い上がり、俺はまた目を閉じてタオルで顔を覆う。身体にぶつかってくる砂は少しずつ収まり、すぐに何も感じなくなった。ゆっくりタオルを外してドラゴンのいた方向を見ると、そこにはもうドラゴンの姿はなかった。ただ、代わりに街が見えた。
俺は街に向かって歩き出した。砂漠で迷い、向かっていた方向には街がなかったことを、俺は宿で見せられた地図で知った。
☆おしまい☆