歯車
時計塔の鐘が高らかに鳴り響いた。
僕は君を追いかけて表通りの方へと飛び出し、明るい中で君の手を捕まえる。振り向いた君は僕に手を引かれて腕の中に収まった。時計塔の鐘は時の数だけ僕たちを祝福するように鳴り、すぐにオルガンの音に変わる。僕たちはその音に合わせてクルクルと踊り出した。
目の前に君の笑顔があるこの時が、僕にとって幸せな時間だ。いつまでも続いて欲しいと思う。だがその思いとは裏腹に、君は僕の腕をスルリと抜け出す。
今踊ってくれたのはなぜ? 笑顔を僕に向けてくれたのはどうして? 疑問を晴らしたくて、僕は君を追いかけ、時計の下のドアに駆け込む。
そして僕は、暗い時を過ごすんだ。ただ君を思いながら。また君を抱きしめ、一緒に踊れるその時を夢見て。
カチリ、ガチリ、と歯車の音が足元に近づいてくる。そして時計塔が鐘を鳴らし、僕はまた君を追いかける。町の人が僕たちを見上げるなかで僕は君を捕まえ、幸せに踊るんだ。一緒に踊っている人もいる。彼らはずっと一緒だけれど、でも僕は、また君を追いかけて暗い時計塔に戻る。
きっといつか時計は壊れ、その動きを止めるだろう。それがどうか、僕が彼女と一緒にいる時でありますように。この追いかけっこの行く末が、どうか幸せなモノでありますように。
カチリ、ガチリ、カチリ、ガチリ。時計と僕の胸の音は、今も続いている。
☆おしまい☆