叶わなかった初恋 3
「裕くんは初恋だったのっ、綺麗な思い出だったのに」
「初恋は叶わない方が幸せだって言うよ?」
私、そんなの知らない。知ってたって知らない。
「それに、俺に運命感じてくれたんだよね?」
思わずウッと言葉に詰まる。
「……、ずるい」
けど。た、確かに感じちゃったよ。どうしよう。
「まぁ、付き合ってみて嫌だったら振って。それなら受け入れられるけど、そんな過去の男に付き合うチャンスさえ奪われるのは嫌だからな」
ポカンとその真面目な顔を見ているうちに、また一人お酒を手に寄って来る。
「明裕ぉ。お前数少ない貴重な女の子に、なんてコトするんだよぉぉ」
「してないしてない、まだ何もしてない。それは追々ね」
裕く、じゃなかった明裕って男は、いつの間にか酔っぱらったような顔を作ってる。
「この幸せものぉ」
「邪魔邪魔。お前邪魔」
首絞められて笑ってるし。でも、手は冷静にお酒をもぎ取っていたりして。
その上追い返してこっちを向いたときは、もう真面目な顔をしてるって一体。この人ホントのキツネなんじゃ?
「じゃ、そういうことで。これからよろしくね」
「そういうことで。って……」
でも。裕くんには悪いけど、いつのまにかこの強引なところ、ちょっと好きかもしれないなんて思っちゃってる。これがホントの運命だったらいいなって。キツネに化かされるのも悪くないかも。
「あ、そうそう。裕くんじゃなくてアッキーって呼んで」
はぁ? 言うに事欠いて、何がアッキーよ。
「イヤ。裕くんって呼ぶ」
そのくらいしか私にできる仕返しが思いつかない。明裕は眉を寄せると、ハァと大きくため息をついてから顔を上げた。
「まぁいいか。奈々と付き合えるなら裕くんでも」
そう言ったかと思うと、明裕は満面の笑みを浮かべた。しかも、もう呼び捨てられてるわ、肩を抱き寄せられるわ。んもう、何この人。全然堪えてない。アバウトすぎ。ポジティブ過ぎ。
でも。初恋、吹っ切れちゃったみたい。裕くんとの恋は、叶わない方が悲しくないかもしれない。近づいてくる唇に目を閉じながら、私はなんとなくそう思った。
☆おしまい☆