王子の受難
水音に振り向くと、岩陰から首だけ出して女の子がこっちを見ていた。邪魔してくれるなと思いつつ、また望遠鏡をのぞき込む。
「もしかして王子様?」
「は? なんでだ、違う。俺は望遠鏡で星を見に来ただけの、ただの人」
「星って、あの上の方にあるキラキラ?」
「ああ」
「水面もキラキラしてるけど、その上でもキラキラしているのね。星まで行けるのは、何? 鳥?」
「無理。一番近い月っていう星に、人間が数人行っただけ」
「え? みんな同じ所にキラキラが浮いているんじゃないの?」
「星は宇宙にある丸い物体なんだ。遠さは色々」
「ええ? キラキラしてるのに?」
「空気が揺れると星の表面に反射した光も揺れるから、キラキラして見えるだけ」
「そうなの? 空気って凄いのね!」
「そこかよ」
「そっかぁ、空気もいいかも。だったら私も王子様の乗った船、探さなくちゃ。じゃあね!」
水面を叩いた音に振り返る。岩の向こうにいた女の子がくるっと身をひるがえすと、魚のしっぽが跳ね上がって消えた。
近いうちに水難事故に遭い、声の出なくなったあいつを拾って面倒を見た上、殺されかける王子が現れる。……、かもしれない。
☆おしまい☆