オイラのシッポ 5


 突然、戸の方から光が入ってきた。僕はその光に向かって一生懸命走った。さっきの男の子にぶつかってしまい、よろめいた拍子にちょっとだけ足をくじいてしまった。あ、追いかけてくる! でも、家に帰らなくちゃ。ポチと一緒にいないと、元に戻れなくなっちゃうかもしれない。走らなくちゃ! あの角が見えてきた。あ、なんだか僕の声が僕を呼んだ気がする。あの角まで行けば。もうちょっとだ、もうちょっと。ココを曲がって、
 ドンッ!
 うわぁ!! 殻ができた! 戻れるのかな? それとも他の何かに……。

「クーンクーン……」
 なんで足が痛いんだろう。舌で足をなめてみる。うん、だいぶいいぞ。え? 舌が足に届いてる、オイラ犬に戻ってる! やった、やったぁ!
 気づけばみきおより大きな人が、目の前ににょきっと立っている。ちょっと怖い。
「これ、僕の犬なんです、ポチって言うんです!」
 みきおは、オイラの前に立つとそう言ったんだ。
「ああ、飼ってるのか。ちぇ、首輪くらいつけておけよ」
 なんだか分からないけれど、その大きな人は、いま来た道を戻っていった。
「よかったね。僕のうちにおいでよ。おやつを半分わけてあげるからね」
 え? なんだよ。あ、ちょっと待ってよ、オイラも行くよ。待ってったら!

 みきおはお父さんと一緒に、みきおのうちの隣にオイラのうちを作ってくれた。家の中の食べ物もくれる。人間の中でも優しい人間っているんだな。
 でもオイラがココにいるのは、一緒にいるって約束をしたからだよ。約束ってのは、破ったらハリセンボンっていう痛いモノを食べなきゃならないらしい。やっぱり人間って信用できない。痛い食べ物も家の中に隠してあるってんだから。オイラはそんなの食べたくない。
 あ、みきおだ! あれ? オイラのシッポがブンブンしてる。どうして勝手に動くんだ?

☆おしまい☆


短編掌編 TOP