鞘の剣 1-1


「ソリストになるわ」
 私はソリストであるアテミアさんの所へ、毎日聖歌の練習に通っている。そのたびに必ずと言っていいほど父にそう告げてきた。でも父は許したくないのだろう、いつも少し顔を引きつらせ、わざと信じられないといったように聞き返す。
「本当にソリストをやりたいのかね」
「はい」
 すぐに返事をすると、父はとても困ったような顔をした。真剣に考えていることくらいは、いい加減分かって欲しい。
「だが、リディアはまだ十四歳になったばかりだからね」
「ダメなの?」
「いいや、ダメとは言わんよ。見習いに入れるのは十五歳になってからだ。それまで家族でゆっくり考えてみることにしよう」
 いつも繰り返される会話。私が決めたことを、家族に考えてもらっても意味がないと思うし、なにも変わらないと思う。ううん、何年経っても私が変わらなければ、それでいいことなのだろう。父のことだから、私の気持ちを試しているのかもしれない。
「これからアテミアさんのところへ練習に行ってきます」
「ああ、そうだ。明日ルーフィス殿を夕飯に招待したよ」
 ドアに向かった私の背中に、父は声をかけてきた。ルーフィスさま? だったら、もしかしたら……。
「フォース君も連れてくるように頼んでおいたよ。子供同士話も合うだろうから、リディアも退屈しなくて済むだろう」
 子供同士? 退屈? とんでもない! 私よりたった二歳年上なだけなのに、フォースはちゃんと騎士という仕事を持っている。私はまだ、なにもできないでいるのに。それに、会うと私の心臓はパニックになる。せっかく話そうと思うことを考えておいても、嘘みたいに言葉が出なくなってしまう。なにも話せないくせに、姿だけは見ていたくて。私といても退屈なんだろうと思うと、胸が痛くなるのに。
「明日の練習はお休みにしてもらってきなさい」
「はい」
 私は、満面の笑みを浮かべているだろう父を部屋に残してドアを出た。
 どうしよう。父のことだから、またフォースをからかおうと思っているかもしれない。困らせて喜ぶなんて、父は大人げがない。私はそれを止めに入って、いつもフォースに苦笑される。きっと呆れられてる。面白い子とか、変な子とか思われてるに違いないと思う。違いないけど、それでも会いたいのは滑稽? あんなとんでもない出会いをして、それでも忘れたくないのは変なの? フラれたのに、それでも好きでいるのは迷惑?

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