鞘の剣 2-1


 ディーヴァの山の青き輝きより
 降臨にてこの地に立つ
 その力 尽くることを知らず
 地の青き恵み
 海の青き潤い
 日の青き鼓動
 月の青き息
 メナウルの青き想い
 シャイア神が地 包み尊ぶ
 シャイア神が力
 メナウルの地 癒し育む

「今日はここまでにしましょう」
 アテミアさんがそう言って微笑んだ。アテミアさんは本職のソリストで、とても綺麗で奥の深い声をしていらっしゃる。今日は私も声の調子がよくて、歌うのはとても気持ちがよかった。
「リディアは、ここを歌うのが好きなのね」
「はい」
 だって、たくさん青って出てくる。大好きなの。青って言葉は、フォースの優しい微笑みを思い出させてくれるから。
「リディアはシャイアさまが好き?」
 アテミアさんは、優しい笑顔のまま私にたずねた。胸がドキッと鳴る。
「好きです」
「誰よりも?」
 誰って、誰のこと? 最初に浮かんだのはフォース。それから父と母。シャイアさまは、その後かもしれない。
「私、父と母の方が、好きかもしれません」
 フォースのことをアテミアさんに言えなかったのが、とてもうしろめたく思う。
「そう。そうね。それはそうかもしれないわね。でもねリディア。聖歌は祈りなのだから、シャイアさまのために歌うモノなのよ。他の誰かのためじゃなくね」
「はい」
 返事をしたら、とたんに視界が曇った。プツッと涙が落ちる。驚いて止めようと思ったのだけど、涙が後から後から出てきて、どうしようもなくて。
 アテミアさんが、両手で顔を覆った私をそっと抱きしめてくれた。髪を撫でてくれる手がとても優しい。
「ソリストになるかどうか、それはリディアが十八になる時に自分で決めればいいことなのよ。その時まで、自分の気持ちを大切にするのよ。大切にね」
 アテミアさんは私の歌を聴いて、私が持っている気持ちに気付いてしまわれたのだろう。十八になるまで、それまで私はこの気持ちを、そのまま抱えていてもいいですか?

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