鞘の剣 4-1


 そのままフォースと一緒に母を捜した。やっと見つけた母はたくさんの荷物を抱えていた。母はフォースに荷物を持たせて、ほとんど無理矢理家まで連れてきた。報告書を書きたいので後から改めてうかがいますと言うフォースを、早くに帰ってきていた父が引き留めにかかる。フォースにかける迷惑も、少しは考えて欲しいと思う。でもフォースが家にいてくれるのを一番喜んでいるのは、私かもしれないけれど。
 父に捕まって話し相手をさせられていたフォースを、私は自分の部屋に引っ張ってきた。でも結局私はなにも話せなくなるし、フォースが私に話すコトなんてきっと何もない。報告書のためにメモ書きしておくというフォースにペンと紙を渡し、私は台所に降りてお茶を入れ、部屋に戻った。
 戻ってみると、机に置いた左手に頬を乗せて右手にはペンを持ったまま、フォースは眠っていた。学校で居眠りをしている子供みたいに見えて、頬をつまんで引っ張ってみたくなる。
(バカ、剣を抜けって言ったんだ。何かあったらどうするよ)
 あの大きな騎士が行った言葉をふいに思い出す。もしかしたらフォースは、私が恐がりだから剣を抜かずにいてくれたのかもしれない。強いから持てる優しさを、フォースは持っている。
 私も、いつまでも弱いままではいけないと思う。ソリストになるなら、もっと強くならなくては。傷を癒せる訳ではないけれど、人の心を癒してあげられるようになるには、私自身が強い心を持たなければならない。できるんだろうか。ううん、できなくても頑張らなきゃいけない。フォースが望む幸せな世界に、ほんの少しでも近づくためにも。
 そして今は、十八になるまでは、フォースのために歌おう。アテミアさんには呆れられるかもしれないけれど。シャイア様にもたくさん懺悔をしなくてはいけないけれど。
 ベッドから布団を持ってきて、そっとフォースにかけた。指を解いてペンを取る。それでも起きそうな気配は全然無い。メモには殴り書きでいくつかの単語が転がっていて、なんて書いてあるのか読めないモノもある。普段はこんな字を書いているのかと思うと、なんだか嬉しかったり。
(ありがとう)
 私はメモの端にそう書いた。そしてフォースが起きていたら言えない言葉、でも伝えたい気持ち。
「大好き」
 小さな声でそれだけ言って、そっと、できるだけそっと、頬にキスをして部屋を出た。

☆おしまい☆

シリーズ目次


3-3へ TOP