アルテーリアの星彩 1


 飛び上がると届きそうで届かない上方、土の壁に突き刺さった短剣を抜き取るまでが長かった。ようやく抜き取った短剣を、アルトスは土壁、胸の高さに深く刺し直す。身体を軽くするために外した鎧のパーツ全部を、落とし穴の底から地面に投げ上げた。穴の中に何も残っていないことを確認すると、土壁を崩した穴に弾みをつけて足をかけ、突き刺した短剣を足掛かりにして地面のふちになんとか取り付く。腕の力で身体を持ち上げると、アルトスはやっとのことで落とし穴から抜け出した。
 周りを見回したが、アルトスを落とし穴にはめた張本人であるフォースの姿は、当然のようにどこにも見あたらなかった。
 前にここで会った時、剣に毒を仕込んで傷つけた。その毒が効かずに生きていたということは、フォースが神の守護者と呼ばれる一族の一員であるという、何よりの裏付けとなる。
(戦なんて、馬鹿げてると思わないか?)
 フォースがそう言って浮かべた笑顔を、穴の中から見たアルトスは愕然とした。もう十七年も前の記憶から、優しく懐かしい人の顔が重なったのだ。守護者の一人で、これだけそっくりな笑顔を持つ人間。しかし、似ているなどと思ったのは、フォースの戦に対する姿勢からかもしれない。だが、濃紺の瞳を持つ人間など、そうそういない。間違いはないだろうと分かっていながらも、十七だという歳、濃紺の瞳など偶然だと、どこかで否定している自分がいる。今まで見たことがあるのは、温かな笑顔を持つあの人と、その腕の中にいた赤ん坊だけだというのに。
 複雑に絡んだ思いと身体に付いた土を払い落とし、鎧の土埃も丁寧に取り除いて身に着ける。草の上に落ちていた剣を拾って鞘に収めると、アルトスは落とし穴を背にしてドナの村へと歩き出した。

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