レイシャルメモリー後刻
第5話 変化、ということ 7
「あんなにリディアに懐いているあたり、フォースの課程は修了したんじゃないか?」
なぁ、とグレイに同意を求められ、フォースはお茶を口に運びながらうなずいた。まだ子供なのだから、相手が結婚した時点で恋心が無くなっても、全然不思議ではない。グレイは、リディアとニーニアがいる部屋の方を見てから、フォースに視線を戻す。
「嫁に出したいのは、リディアを取られるのが嫌だからか」
口にしたお茶を吹き出しかけてこらえ、フォースはノドを鳴らしてお茶を飲んだ。
「熱っ、違うって」
冷ややかな目を向けられたグレイは、可笑しそうに笑っている。
「ニーニアニーニア言うけどさ、あの歳で結婚を考えなきゃならないなんて、かわいそうだろ」
「いや、生まれた瞬間から俺の婚約者だったんだ、王族の結婚に関しての考え方はしっかりしてるぞ?」
フォースが言う婚約者の立場でいたら、考えざるを得なくなるのは分かる。でも、あんな小さな子がしっかりしていると言われても、ピンと来ない。
「それならなおさら、少しでも自由にさせてあげたいよ。そういう感情を持つのも、大事なことだろうから」
そうでなければ、義務だけで生きていかなくてはならないと思いこんでしまうかもしれない。結婚しなくてはならない、子供を残さなくてはならない、それも勤めなのだと。
人の気持ちは自由であるべきだと思う。自分の気持ちでさえ、操作できないほど自由に。ひいては、それが自分の世界を大きくしていくのだろうから。
「そうかもな」
気付くと、そう言いながらグレイがフォースの袖を引いている。
「まぁ、正式な申し入れはしないでおくよ」
フォースもリディアさんがいたから変わった部分が多いのだろう。だから分かってもらえるとは思っていたけれど、返事を聞いてホッとした。
フォースにとってはリディアさんが、グレイにとっては文字通りシャイア神が女神だった。俺にとっての女神は、そう、ユリアなんだろう。
「信頼できる女神がいるって、幸せなことだよな」
思わずつぶやいた言葉に、フォースが驚いた顔を向けてきた。
「女神? サーディ、何を考えているんだ? 本当に怪しいぞ?」
「あ、いや、深い意味は無くてね」
笑ってごまかそうとしたが、グレイが珍しく穏やかな笑みを浮かべたせいで、口を開くのを待ってしまう。
「昇華か」
グレイの発した一言に、すっかりバレていると思ったら、冷や汗が出てきた。何か言い返そうとしても、言葉が思い浮かばない。グレイはノドの奥で笑いながら視線を向けてくる。
「全部を昇華させるなよ」
いくらなんでも、それは無いだろう。グレイの言葉に、身体の力が全部抜けていった。
☆おしまい☆
※竹芝苑上さまのリクエストで書かせていただきました。ありがとうございました。m(_ _)m
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