レイシャルメモリー後刻
第6話 変化、ということ 6


「お許しいただけて嬉しいです!」
 凜とした声が戻ってきたのが、なんだか嬉しい。逆にフォースがムッとした顔になる。
「まだ許してない」
「仕方が無いじゃないか」
「だけど」
「俺も小さかった頃、城を抜け出したくて機会を狙っていたんだよな、懐かしい」
 それを聞いて、フォースは盛大なため息をついた。
「そういうのが一番困るんだ」
 護衛の騎士なら、予定通りに動かないと困るだろうけど、今のフォースの立場なら、そこまで困ることもないだろう。いつまでたっても騎士なのだと思う。
「部屋を用意させるよ」
「ありがとうございます」
 ニーニアの丁寧なお辞儀に、フォースはため息をつきつつ片手で顔を覆った。でも俺は、感情を素直に行動に移すその天真爛漫な様子に、気持ちが和んでいくのを感じていた。

   ***

 どうぞ、とユリアが三人分のお茶を置く。
「一緒にいればいいのに」
 そう声をかけると、ユリアは微笑みながら、いいえ、と首を横に振った。
「リディア様がお休みになったようですので、私も下がります」
「そう?」
 リディアさんはニーニアに一緒にいてと頼まれ、部屋に行ったまま眠ってしまったらしかった。男ばかり、馴染みの三人の中に居ても、つまらないかもしれない。
「じゃあ、またね」
「はい。失礼いたします」
 ユリアはきちっと礼をして、神殿へと続く廊下へ入っていった。目で追っていたフォースが、グレイに顔を向ける。
「分かった気がする」
「何が?」
「サーディが怪しいって」
 吹き出すのをこらえた目の前で、グレイが、だろ? と親指を立てた。
「そうなんだよ。女の子とは必要なこと限定でしか話さなかったのに、今は誰とでも話してる」
「はぁ? それはグレイが、積極的な娘は控えめでおしとやかな娘の窓口だ、って言ったからだろ」
「そうだっけ?」
 グレイは、しれっとした顔のままでそう返してきた。言った本人が忘れているのか、この野郎。
「グレイ、俺は本気にしたからこうやって」
「覚えてないけど、実際そうだから支障ないよ」
 グレイはノドの奥で笑い声を立てた。フォースも顔を隠すためかそっぽを向いて肩を震わせている。思わず大きなため息が出た。フォースがお茶を一口飲んで口を開く。
「だから、ニーニアを貰ってくれればいいのに」
「まだそんなことを。フォースを好いていたみたいなのに可哀相じゃないか」
 ふとグレイがこっちを見ていることに気付いた。俺が視線を向けた先で、グレイは肩をすくめる。

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