レイシャルメモリー後刻
第6話 変化、ということ 5


「ああ、それはね、そういう娘が控えめでおしとやかな娘の窓口だって、グレイが」
 ユリアは目を丸くすると、ぷっと吹き出した。
「そうですね! そうかもしれません。グレイさんって……」
 俺はつられて笑いながら、楽しげなユリアの顔を眺める。
「うん。マメって言うか細かいって言うか」
「不思議な人ですよね」
 思わず二人でキョロキョロとグレイがいないのを確かめ、声をひそめて笑い合った。
「フォースたちがここに泊まるなら、夜にグレイも入れて五人で話せるね」
「え? 私もいいんですか?」
「もちろん。その方がリディアさんだって喜ぶよ」
 ユリアは胸の前で手を組み、柔らかな笑みを浮かべる。
「ここのお仕事、済ませてしまいますね」
 ああ、と返事をして手を振り、元来た廊下を戻った。
 ユリアの勤務する場所が変われば、もう会うこともないと思っていた。ユリアがヴァレスに配置になったのも、自分が成長するためにシャイア神が気を使ってくれたのかもしれない。
 そのユリアが、心配してくれるのも嬉しい。でも、逆に心配をかけずになんとかしたいという気持ちもある。ユリアのせいで自分が誰とも付き合わずにいると、ユリアに思われたくはない。シャイア神と同等に、早く安心してもらいたい存在だ。
 廊下の先から、聞き慣れない女の子の声が聞こえてきた。
「怒られると思っていました」
「当たり前だ。ここはメナウルなんだぞ? 遊びで行き来できるのは、もう少し先だ」
 怒っているはずのフォースの声が、妙に優しく聞こえる。
「でも、交易が活発化する前のメナウルを、この目で見てみたかったのです」
 フォースの前に立っているのは、フォースの小さな妹、ニーニアだった。その凜とした声にちょっと感心する。
「だいたい、何のためだ? ニーニアがここに来ることを、いったい誰が許した」
「まぁまぁ、そんなに怒らなくても」
 フォースを止めに入ると、ニーニアはキラキラさせた目に微笑みをたたえ、俺に向かって深々とお辞儀をした。
「サーディ様、お邪魔いたしております」
 その様子を見ていたフォースがあっけにとられたようにニーニアを見つめる。俺は膝を折ってニーニアと視線を合わせた。
「こちらに来ることを護衛だけではなく、まわりの者にきちんと話してこられましたか?」
「……、いえ……」
 ニーニアの消え入りそうな声の返事に、ため息をつきたくなるのをこらえる。
「それは心配されているでしょう」
「お兄様がイージスに言伝ました。これから迎えを呼ぶって……」
 その言葉にフォースを振り返ると、フォースは、ゴメン、と頭を下げた。ニーニアは寂しげにうつむいている。
「来ちゃったんだから、一晩泊まっていけばいいよ」
 そう口にすると、三人の視線が一斉にこっちを向いた。驚いた顔の三人のうち、リディアさんが可笑しげにくすっと笑い、目を細める。ニーニアの表情がパッと明るくなった。

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