レイシャルメモリー後刻
第14話 その瞳に映る世界を 14


「終わらせて、よかったんだな」
 フォースのつぶやきに神妙にうなずくと、リディアは赤ん坊を差し出してきた。エッグをリディアに預けてそっと腕に抱くと、間近にある同色の瞳に自分が映っているのが見えた。小さな手が、ひどく愛おしい。
 子供の頃、家族という一つの単位が苦手だった。いつでも別世界のようにさえ感じていた。それが今は目の前に、そして腕の中にあり、自分がいつの間にか同化している。
「リディア。……、ありがとう」
 喜びや愛おしさや安らぎなど、様々な思いが自然と感謝の一言にこもった。リディアはくすぐったそうに微笑む。
「フォースも、ありがとう」
 赤ん坊を挟んで口づけを交わした。フォースの後ろから足音が響く。
「私にも抱かせてくれるか」
 クロフォードだ。フォースは立ち上がってその腕に赤ん坊を預けた。赤ん坊は瞬きを繰り返したかと思うと、声を上げて泣き出す。
「おぉ、よしよし。私の腕で泣くとは大物だな」
 クロフォードは慌てて赤ん坊をフォースに返した。フォースはリディアからエッグを受け取ると、その手に赤ん坊を渡す。それを見ていたクロフォードは、上着の内側に手を入れると、金色のエッグを探り出してフォースに向き直る。
「レイクス、その子のエッグだ」
「は? もう、できているんですか?」
「お前の代で継承権一位になるのだから三人お揃いの金だ。あとは肖像を入れるだけになっている」
 クロフォードは満面の笑みで、フォースに真新しいエッグを手渡した。それはフォースのエッグと同じ大きさで、細工は一段と細かくなっている。
「比べてみると、技術が進んでいるのがよく分かるな」
 クロフォードは自分のエッグを外し、フォースの手に並べて乗せた。三つ並んだ金色のエッグは、細工の出来がどんどん良くなっている。その輝きも、細かな傷のせいか少しずつ違っていた。だがそこには、脈々と受け継がれていく変わらない思いを感じる。
 エッグを作った職人が受け継いだ技術や情熱。それと同じに、自分もライザナルという国のため、国民のため、そして家族のために引き継がなくてはいけないモノがある。
 フォースはまず一番古い一つを、クロフォードに返した。今回作られた新しい一つは、リディアが抱いている息子の胸に置く。そして残った自分のエッグは、すべての責任を負う決意と共に、服の内側に取り付けた。
 だが。まずフォースが最初にやらなくてはいけない仕事は、浴室で言い争っているシェダとミレーヌをなだめることだった。

☆おしまい☆


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