レイシャルメモリー後刻
第14話 その瞳に映る世界を 13


 二人の女性騎士の間を通り、部屋に入った。リディアはベッドに横向きに寝かされ、腰から下は隠されている。フォースがまっすぐリディアの頭側へ歩を進めると、気付いたリディアが笑みを向けてきた。その笑みが歪む。
「痛むのか?」
 かがみ込んで顔を近づけたフォースの問いに、ベッドの向こう側にいるタスリルが肩をすくめた。
「これが最後の痛みだよ。手を握っていておやり」
 なんのことか分からず、それでも言われた通りに手を握ると、リディアはほんの少し微笑み、身体に力を込める。リディアの足側に回ったタスリルが、笑みを浮かべてうなずいた。リディアの手からも力が抜ける。
「よし。よく頑張ったね」
 タスリルの言葉で、フォースはすべてが終わったのだと理解した。
「今連れてくるからね」
 タスリルはリディアの側にいた数人を連れて浴室の方へと入っていく。
「無事でよかった……」
 フォースがつぶやくと、リディアは可笑しそうにクスッと笑い、握った手のもう片方の手を、フォースの前で開く。
「これがあったから心強かったわ」
 その手のひらで、エッグが揺れた。その手に手を重ね、フォースはリディアに口づける。
「こんなに大変なら、俺、もう」
「リディア様」
 イージスが再び泣き声を上げ始めた赤ん坊を抱いて、浴室から戻って来た。リディアは上体を起こしてエッグをフォースに渡し、そっと大事そうに赤ん坊を抱き取る。一度フォースと視線を合わせて微笑むと、リディアはそのままの笑みで赤ん坊を見下ろした。フォースもその視線をたどる。
 リディアの腕の中で泣き声を立てる小さな人間に見入った。泣くことに力が入りすぎ、顔がしわくちゃで赤い。
「フォースにそっくりよね」
 髪の色が自分と同じなのは分かるが、本当に似ているかは分からない。リディアがふんわりと揺らすうちに、赤ん坊の泣き声が少しずつ小さくなってくる。泣き声が落ち着くと、少し人間らしくなった気がした。
 フォースは、顔を上げて見つめてくるリディアになんとか笑みを向け、もう一度赤ん坊に視線を戻した。まぶたを開いて母親を見上げたその瞳に息を飲む。髪だけではなく、瞳もフォースと同じ色だったのだ。リディアは嬉しそうに控えめな笑い声をたてた。
「フォースと一緒だわ」
 その深い紺色は、神の守護者と呼ばれる一族のもので、生存しているのはフォース自身、自分一人しか知らない。シャイア神とシェイド神のゴタゴタが残っていたら、自分がやり残したことを、この子が負わなければならなかったのかもしれなかった。

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