レイシャルメモリー後刻
第14話 その瞳に映る世界を 12


 シェダは説明するのをあきらめたようだ。難しい顔をしてフォースの後ろをフラフラと歩き始めた。もうこのまま何も話さない方が、よほど建設的だと思う。
 ふと隣の部屋から騒然とした空気が漏れてきた。その中に苦しげなリディアの声も聞こえ、心臓が跳ね上がる。シェダも気付いたのだろう、ドアに耳を寄せた。
「もうすぐだな」
 その声は嬉しそうだ。だがやはり心配が先に立つ。なにせ、今まで聞こえなかったリディアの声が聞こえるのだ。しかもその周りを巻き込んだ喧噪は何度も繰り返され、そのたびに息が詰まる思いになった。
 隣の部屋で、すでに何度目かわからない声が飛び交い始めた時、廊下側のドアにノックの音がした。
「レイクス様、陛下がご到着されました」
「あ。そうだった」
 クロフォードが来るということを、フォースはすっかり忘れていた。慌てて駆け寄り、ドアを開けると、クロフォードはすでにジェイストークのすぐ後ろまで来ていた。
「まだだそうだな」
「はい、まだ……」
 心痛を見て取ったのか、クロフォードはフォースの肩をポンと叩いた。
「何度か経験すれば慣れる」
「は? な、何度かって」
「もし今回が男でも、いろんな状況を考えたらもう一人はいた方がいい」
 クロフォードの言葉を、フォースはポカンと見つめた。何度経験しても慣れるとは思えないし、いろんな状況が何なのかすら考えられない。
「もう少しよ」
 ミレーヌの声が届き、フォースは息を飲んだ。廊下に一歩出て、リディアの部屋の方をのぞき見る。ワァッという歓声のあとに、赤ん坊の産声が聞こえてきた。
「産まれたか!」
「産まれましたね!」
 フォースの後ろからシェダが出てきた。クロフォードとガッチリ握手を交わすと、そのまま隣の部屋へと歩いていく。フォースは思わず唖然として二人を見ていた。
「レイクス様?」
 ジェイストークの声で我に返り、フォースもリディアの部屋へと足を向けた。
「王子様です」
 途中で誰かがそう言ったのが聞こえた。中を見ると、先に通されたクロフォードとシェダがリディアに声をかけ、すぐに浴室へと入っていくのが見えた。赤ん坊はそっちにいるのだろう。

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