レイシャルメモリー後刻
第14話 その瞳に映る世界を 11


 これは何があっても、何かにつけて言われるだろうと容易に想像がつく。ただ何を言われても、今さらだったりするのだが。
「女の子だ。女の子がいい。そうは思わんか?」
「別に、生きていてくれたら、どっちでもかまいません」
 ドアから聞こえる音をあきらめたのか、シェダはフォースの後ろをウロウロし出す。
「誰に似ているだろう。髪の色が何色かも気になるな」
「そんなの、どうでも」
「親なら普通気になるだろう」
「普通がどうか知りませんが、今俺は、ただ無事でいて欲しいだけです」
 フォースの言葉に、シェダは長いため息をついた。
「そういえばこの間も、産婦と赤ん坊の葬儀があっ、いや、なんでもない」
 なんでもないも何も、そこまで言ってしまったら言ったも同然だ。この間も、ということは、それなりに数が多いということなのだろう。母子の葬儀があるたびに、シェダはリディアを心配していたのだろうと想像がついた。だがフォースには、シェダの内情など、どうでもよかった。
「あなたっ!」
 いきなりドアが開き、ミレーヌがそこにいた。フォースは思わず立ち上がった。
「ミレーヌ、リディアは?」
 シェダは問い詰めるように顔を寄せる。ミレーヌは眉を寄せ、フッとため息をついた。
「順調ですよ。けど、そんなところで騒いだら、全部筒抜けです。非常識ですよ。リディアに嫌われても知りませんからね」
 そう言ったミレーヌを、シェダは唖然とした顔で見つめている。ミレーヌの視線がフォースに向いた。
「もうすぐ産まれますよ。息みがきましたからね」
 フォースは、ハイ、とだけ返事をした。ミレーヌはフォースにだけ笑顔を残してドアを閉める。
 フォースは、まだ終わらないのかと、力が抜けたように椅子に座り込んだ。待っているだけでも辛い。だが、さらにもう一つ問題があった。その元凶が、拳をふるわせている。
「私が何か嫌われるようなことを言ったというのかっ」
 ドアに向かってそう言ったシェダが振り返る。シェダには記憶ってモノがないのかとフォースは思った。
「そう言えばこの間も」
 そこだけつぶやいて口をつぐんだフォースに、むきになったシェダが視線を向けてくる。
「あ、あれは純粋にリディアを心配して言ったことで、だ、だからだ、その……」

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