レイシャルメモリー後刻
第7話 新しい一歩 1


「サーディ、将来メナウルを担う人間も、同じ学校で育っている。しっかり親睦を深めておけ」
 王族といえども特別扱いはしない。その父上の考えに添って、皇太子の俺は学校に入った。
 メナウルの学校は一般常識的な学問を学ぶこの学校と、騎士のための学校がある。騎士を目指す人はまずここで学び、十四歳になってから騎士学校へと分かれて進んでいく。
 学校に通い始めて二年、八歳になったある日のこと。同い年のフォースという奴が、途中入校してきた。
 まわりの噂によると、将来は騎士になることが決まっているらしく、やはり騎学へ進むらしい。実際ルーフィスという騎士の息子で、表向きは特待生ということになっている。なんでもヴァレスからわざわざ父上が連れてきたらしかった。
 でも、学校にいるのを数日見ていて、そいつは騎士に向いていないと思った。なぜって。誰とも付き合おうとしない上、授業までサボるからだ。

   ***

「どうしたんです? 怖い顔して」
 神殿に住んでいるグレイが、座っている俺の横に立って覗き込んできた。
「あいつ、またサボるつもりだ」
 俺は荷物をまとめているフォースの背中を見ながらそう返した。グレイはただ肩をすくめる。
「そうみたいですね」
「次は剣術基礎だ。有り得ないと思わないか?」
 睨むような視線をそのまま向けると、グレイは困ったように苦笑した。
「そういえば彼、騎士候補でしたっけ」
 うん、とうなずいてフォースに目を向けると、ちょうど鞄を肩にかけたところだった。思わず立ち上がって駆け寄り、鞄の紐をつかむ。
「おい、待てよ!」
「……、なんか用?」
 フォースは振り返って面倒臭そうに顔をしかめた。紺色の目に一瞬ドキッとする。
「な、なにやってるんだ、ちゃんと授業に出ろよ」
「口を出すな」
 ため息混じりに返ってきたその言葉に、俺の中で何かがブチッと切れる音がした。
「剣術に出ないってことは、先生にも勝てるってことだよな? 来い!」
 俺は手にした鞄の紐を引っ張り、剣術の練習場へと足を向ける。
「おい、俺は行かなければならないところが」
「腕を見せろよ! 納得いったら許してやる」
 ため息をついたフォースを振り返らず、俺は歩を進めた。フォースも、もう何も言わずに引っ張られてくる。その後ろからグレイも付いてきた。
 練習場にはすでに先生がいた。前王の在位中は中位騎士だったそうで、そりゃいくらか歳もとっているけれど、中位騎士ってことは剣術も強いはずだ。ずっとこの学校で剣術基礎を教えている。

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