レイシャルメモリー後刻
第7話 新しい一歩 2
「先生」
声をかけながら練習場に入った。
「サーディ様。ん? 君は……」
一度合った視線が俺の後ろに逸れる。後ろから舌打ちが聞こえた。
「あんたか」
あんた? 今先生のことを、あんた、って言ったか? それはいくらなんでも、あんまりないい方だろう。
「先生、コイツと手合わせして欲しいんです。剣術基礎は騎士候補が出なくていい授業じゃないですよね?」
先生は視線をフォースに向けたまま軽くうなずくと、フッと余裕の笑みを見せた。
「元気にしているかね?」
フォースは一度視線を合わせただけで、話したくないとばかりに顔をそらす。
「本当に必要ないのか、手合わせをしてみろとのことだが」
「必要の有る無しを決めたのは俺じゃない」
相変わらずそっぽを向きながらフォースが答えた。フォースが決めたんじゃなければ誰が決めたんだという疑問が、俺の頭をよぎる。先生は苦々しい笑みを浮かべた。
「だが、従っているのは必要ないと思っているからだろう」
「まぁ、そうだけど」
その言葉に、先生の笑みが妙に明るくなった。
「ならば勝負だ。タダでは面白くない。君が負けたら黙って差し出してもらおう」
「賭けろってのか?」
はぁ?! なんでいきなりそんな話になるんだ? いつのまにかポカンと開いていた口に気付き、俺は慌てて口を隠した。
「……、まぁいいか。あんたが負けたら二度と手を出すなよ」
手を出すってことは、賭の対象は人ってことだ。そんなの冗談じゃない。
「ちょっ、ちょっと待って先生。人を賭けるなんてダメだ! それに君もなぜ受けるんだ、差し出される方の身にもなれよ!」
聞いているのかいないのか、二人はサッサと練習用の剣を選び出した。フォースの選んだ剣は大人用に近い長さだけれど、先生のと比べるとやっぱり短い。体格も小さいし、それだけですごく不利だろう。二人は間を置いて練習場の真ん中に立った。
「待って、聞いてよ!」
やめさせなきゃと思ったけれど、先生の目はすでに獲物を捕らえたかのようにフォースから離れない。フォースは信じられないことに、冷笑を浮かべた視線をこっちによこした。
「俺さ、そいつに教わる気はさらさら無いんだ。だからかえって好都合」
「てぁーーーっ!!」
気合いを入れた奇声を発しながら、先生がいきなり剣を振り上げた。礼もしないで卑怯、と思ううちに、フォースが剣身をかいくぐり、剣の柄で先生の手の甲を殴りつける。ウワッと驚いた先生の声と共に、先生の剣が床に落ちて音を立てた。
「卑怯な!」
そう叫んだのは先生の方だ。どっちが卑怯なのかと問い返したくなる。
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