レイシャルメモリー後刻
第7話 新しい一歩 3
「もう一度だ!」
「な、何言ってるんだ、先生……」
止めようとした声が、あまりのアホらしさに力が抜けてつぶやきになる。俺はグレイに引っ張られて後ろに下がった。先生はなりふり構わず剣を拾うとフォースに向けて構え、すぐに斬りかかっていく。
フォースはその剣身を受け流し、基礎バリバリの正攻法で攻め込んでいる。押しているのはどう見ても身体の小さなフォースの方だ。動きが速く、的確に先生の隙を突いているのがよく分かる。先生の顔が少しずつ青くなっていく。剣の長さは長い方がいいなんて、必ずしもそうではないらしい。同い年でこれだけの腕だなんて、半端無く凄いと思う。
今まで澄んだ金属音だった音がガキッと嫌な音に聞こえ、先生の剣が宙を舞った。その剣は放物線を描いて、板張りの床にトンと突き立つ。フォースの剣の切っ先が、まるで当たり前のように先生の喉元に突き付けられていた。
「基礎のみで付き合ってやったんだから、文句無いよな?」
「フォース、だが私は君を」
「約束だ」
フォースのきつい視線に、先生が肩を落とす。ただ突っ立っている先生を尻目に、フォースはため息を一つつくと、床に突き立った剣を抜き、自分が手にしていた剣との二本を片付けた。置いてあった鞄を肩にかけ、サッサと練習場を出て行く。
「サーディ様」
フォースを追いかけようとした背中に、先生の声がした。立ち止まって振り返る。
「どうか、伝えてはくださらないか。私は彼を」
「あきらめた方がいいですよ」
不意にグレイが口を開く。
「俺たちは先生の約束を覚えています。それに、父親に頭を撫でられるのとはワケが違うんですから、彼にだって選ぶ権利はあります」
あからさまにガッカリしている先生との間に入り、グレイが俺の肩を押した。
「追いかけるんでしょう? 行ってください」
***
「フォース、待って!」
見えてきた背中にそう言っても、フォースは足を止めてはくれなかった。仕方なく全速力で走って追いつく。
「まだなんか用?」
それでも足を止めずに、フォースは言葉だけを向けてきた。
「いや、ゴメン、謝りたくて」
「それくらいなら、どうして騎学に遅れたのか、陛下に説明しておいて欲しいんだけど」
「え?」
騎学とか父上とか、言葉が頭の中でぐるぐるしていて何を言っているのか分からない。
「だから、こっちで何を受けて、騎学で何を受けるかの最終決定を下したのは陛下だって、あ」
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