レイシャルメモリー後刻
第10話 以心伝心愛情愛護 1


 ジェイストークは、フォースの筆跡で出されている書類をまじまじと見つめていた。イージスの隊に所属していたオルニという兵士が、父ペスターデの元へと移動になっている。その弟のノルドもだ。
「この移動は何です?」
「オルニの挙動がおかしいと気になさっていたようです」
 明らかに暗い表情を見せたイージスから、そう返事があった。
「レイクス様が? それだけで移動を?」
「いえ、オルニがノルドと共に、リディア様を城外に連れ出そうと企てまして」
「なんだと?」
 アルトスが声を荒げる。その声にジェイストークは肩をすくめて苦笑した。だが皇太子妃を城外に連れ出そうなど重罪だ。ジェイストークも黙ってはいられなかった。
「移動の他に処分は」
「城の出入りが禁止にはなりましたが。あとはペスターデ殿が自主的に一番高度のある場所で使っているだけです」
 イージスの言葉に、ジェイストークはアルトスと顔を見合わせる。
「詳しい報告を」
 アルトスの発した低い声に、イージスは頬を緩ませ、はい、と力を込めてうなずいた。

   ***

 平地は暖かだが、ディーヴァの山を北へ向かって中腹まで登れば、結構な寒さだ。
「イージスも納得できていなかったんだな」
 重たいローブを着込んで研究所への山道を登りながら、ジェイストークは独り言のようにつぶやいた。
「当たり前だ、ぬる過ぎる」
 即座に帰ってきたアルトスの返事に、ジェイストークは笑みを浮かべた。何の話しなのか、言うまでもなく通じたようだ。
 そして、ジェイストークも同じ思いを持っていた。当然このままで済ますわけにはいかない。オルニにもノルドにも、それなりの報いを受けさせなくてはと思う。
「それにしても妙だ」
 返事の代わりに振り返ると、アルトスは眉間にしわを寄せていた。
「レイクスのことだ、もっと怒ってもよさそうだが」
「その場にリディア様がいらしたのだろう」
「後から指示を出さなかったのは?」
 坂道を登る足を完全に止め、後ろにいるアルトスと向き合う。疑わしげな視線に、ジェイストークもハッキリと返事はできそうにない。
「リディア様に筒抜け、だからかな?」
 ジェイストークがアルトスから目をそらしたそこに、馬を繋いだ小屋が見えた。そしてその向こう側には、森に囲まれたラジェスの街がある。少しでも気温の低い環境を手に入れるために、ペスターデの研究所はラジェスから山をまっすぐ北へと登った先に作られているのだ。その視線の端を、アルトスが追い抜いていく。

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