レイシャルメモリー後刻
第10話 以心伝心愛情愛護 2
「ならば、捕まえたのがリディア様に無礼を働く前だったのかもしれん」
「打ち解けて過ごされたということか!」
ジェイストークはそう返しながら、すぐにアルトスの後に続いた。
「それだよアルトス。処分することでリディア様に罪悪感を持たれるようではいけないし、ソーンの知り合いという考えもあったかもしれない」
その言葉に振り向いたアルトスに、ジェイストークは軽くうなずいて口を開く。
「分かってるよ。リディア様には気付かれないようにコトを進めよう」
アルトスはわずかに笑みを浮かべると、前を向いてまた山道を進み始めた。
坂を登るのはキツいが、音を上げるほどの距離はない。最初から研究所の近くまで馬を通せるように道を整えてあるからだ。
その点、ジェイストークはフォースに感謝していた。北から運んできた植物を、簡単に山の上まで運ぶことができる。行き来が容易な分だけ、父ペスターデも余計なことに気をとられずに研究を始められた。しかも、研究所は大きくはないが、しっかりした石造りなのだ。暖炉がある広間と、五、六人が寝泊まりできる部屋もある。普段は温かく過ごせるようになっていた。
研究所を用意する他にも、フォースは余った騎士や兵士の労力を、道の整備やメナウルへの水道の建設などに、上手く振り分けて使っている。
特に、騎士を要して主要道路の両脇に背の低い作物を植える畑を作る、という策には驚いた。
騎士が農作業をしていることで、増え始めていた盗賊による被害が少なくなったのだ。膝丈あるかないかの作物では、陰に隠れることもできない。馬車を襲おうと、騎士を避けながら畑のさらに裏側に隠れていても、馬車は盗賊の姿が見えた時点で取って返すか、速度を上げて突っ切ることができる。追いかけてきたとしても、作業をしている騎士は目に付きやすく、助けを求めることも容易なのだ。
おかげで盗賊の出現率が格段に減っている上、逆に収穫は増えそうだ。しかも通行する馬車や人間の滞在が増え、それと共に様々な情報も多くなり、確実に街が大きくなりつつある。
開墾から作物の育成まで、現役の騎士が文句も言わずに働いているのが、おかしくもあるが、納得もできる。農作業は持ち回りだが、そこを気に入って専任になっている騎士すらいた。
国の鎧を着たまま、楽しげに開墾や農作業をしている騎士たちが目に浮かび、ジェイストークは思わずノドの奥で笑い声を立てた。疑わしげにアルトスが振り返る。
「ああ、いや、何でもないんだ」
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