レイシャルメモリー後刻
第13話 その輝きは永遠に 1
暗い部屋の四隅に、ろうそくの明かりが弱く灯っている。ここタスリルの店は、色々な品物が雑然と広げられているので、四隅の明かりだけでは不自由だ。グレイは明るく灯したランプを手にして、一つの引き出しを開けた。乾いた摩擦音を立てた引き出しの中には、何も入っていない。
「あれ? ここのはず」
少しの間考え込むと、グレイは取っ手をさらに引っ張り、引き出しを抜いて裏返した。ランプにかざしてみたが、やはりただの底板だ。
「そんなわけないか……」
引き出しを元に戻し、腰に下げた小さな袋から一枚の手紙を取り出して見入る。描かれている矢印は、間違いなくカラの引き出しを示していた。
念のため、側の引き出しを開けてみる。どの引き出しの中にも、腹痛とか寒気とか表示のある薬袋が整然と並んでいた。その薬袋の下には、作り方の書かれた本がきちんと置かれている。
「どうして無いんだよ」
引き出しの中は、部屋に見る雑然さとは違う。指示をするにしても、引き出し一つ間違うことは無さそうに思える。だが、ルジェナにいるタスリルからの手紙が指し示している場所には、あるはずの本が無かった。
惚れ薬の本だ。と言っても、ハエをすり潰した惚れ薬と違い、効き目の高い劇薬が載っていると手紙に書いてある。惚れさせるという面では効き目が強いが、一歩間違えると好きになって欲しいその人を殺してしまう、危険度の高い薬らしい。
考え込んでしまったグレイを急かしたのだろう、部屋の片隅で闇に紛れていたソーカルというハヤブサが翼を広げた。ろうそくの炎が頼りなげに揺れる。グレイは口を閉じたまま、ため息をついた。
「待ってて。今手紙を書くよ」
グレイは卵形の紙押さえをよけて紙を一枚取り、側にあったペンに手を伸ばした。
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