レイシャルメモリー後刻
第13話 その輝きは永遠に 2


   ***

「無かったって、じゃあどこに?」
 サーディがお茶を手にしたまま聞いてきた。グレイは、眉を寄せた視線をサーディに向ける。
「なんでも、左に二件挟んだ隣の薬師が、その本を欲しがっていたらしいんだ。でも留守なんだよね。軍でも捜索してもらえるように、頼んであるんだけど。見つけ次第、本のことを聞いてくれると思う」
 グレイはその薬師と、一度だけすれ違った事があった。特徴はすべて話してある。あとは待つしかなかった。サーディはお茶に口をつけると、テーブルに戻す。
「その薬師が持っているんだとしたら、その劇薬、作ってしまいそうだよな」
「普通の惚れ薬なら知っているだろうからね。その本が必要だったのは、その劇薬を作りたかったんだろうし」
 そう言うと、サーディはうなずいただけで黙り込んでしまった。いつ本が持ち去られたのだろう。それによっては、すでに薬が存在しているかもしれない。
 何も起こらなければいいとグレイは思った。その薬が使われたとしても、惚れさせられるだけで死んだりしなければいい。いや、嫌な奴に薬で気持ちの自由を奪われるなんて、その人にとっては殺されたも同然なのかもしれないが。
「タスリルさん、明日フォースと一緒に来て、店を引き上げるってさ。さすがにリディアは来られないらしい」
「皇太子妃がおめでたで引っ越し作業はさせて貰えないよな。フォース、グレてるんじゃないか?」
「らしいね」
 サーディと二人、努力して浮かべた笑みだけ交わし、グレイは廊下に向かった。
「懺悔室に行ってくるよ」
 いつもなら、事が起こってから耳に入ってきた。だが今回は違う。これから起こるかもしれないのだ。それなのに、止める手だてが自分に無いことが、ひどくもどかしい。
 懺悔の部屋は、講堂側から入る部屋と、神殿裏側から入る二つの部屋が連なっていて、間には何もはまっていない小さな窓がある。気分的には、自分が懺悔する側の部屋に入りたいとグレイは思った。だが、そんなわけにもいかない。
 グレイは懺悔の部屋の神官側に入室し、椅子に腰掛けた。隣の部屋と繋がる小窓に立てかけてある、人がいない事を示す札を外す。こちら側に神官がいるという合図だ。懺悔が無ければ無いでいいことだと思うし、もしあったとしても真剣に話を聞くことで、嫌な気分からいくらかでも逃れられるかもしれない。グレイはそれを期待していた。
 講堂側の扉が開き、誰かが入ってきた。入って来るなり低い嗚咽が聞こえる。
「うかがいましょう」
 グレイはいつものように、そう言葉にした。
「お座りください」
「すみません、すみません……」
 弱々しい声で謝りながら、椅子に腰掛けた気配がした。小さな窓から伝わってくる雰囲気で、成年の男性だと分かる。座ったあとも、何度も謝罪を口にしながら、頭を下げているようだ。

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