レイシャルメモリー後刻
第13話 その輝きは永遠に 9
「いや、いいんじゃない? リディアは皇太子妃なんだし、今は二人分なんだし」
「グレイ、入っておいで」
隣の部屋からタスリルの声がした。フォースはグレイに手を振って棚を縛り始める。グレイは軽く深呼吸をしてから奥の部屋に足を踏み入れた。幾分身体が軽くなったような気がして、グレイは後ろを振り返る。
「大丈夫、ここなら彼女には声も聞こえないし、入ってくることもできないからね」
それならそれで後から色々聞かれそうだとグレイは思った。振り返った視界はいつもと変わりないが、棚を縛っているフォースをのぞき込んでいるヤーラが見える。
「全身ってのは初めて見たな」
しみじみ言ったグレイに、タスリルは冷ややかな笑みを浮かべた。
「好みかい?」
「まぁ好みだけど。愛情じゃなくて同情だよ」
グレイがそう答えると、タスリルはホッと息をついた。
「それはよかった。付きまとわれているだけで、取り憑かれているわけではないようだ」
取り憑かれるという言葉に、グレイの背筋が冷たくなる。
「あの薬で亡くなった娘かい?」
タスリルの疑問にうなずいてみせると、タスリルは机に一冊の本を広げ、指で文字を追い始めた。
「亡くなった後に、例の惚れ薬の効き目が出てきたのかもしれんね」
「身体じゃなく、精神に効くなんて……」
「身体と精神はアルテーリアとヴェーナのように表裏一体だからね」
そういうモノかと思いつつ、グレイは疑問を口にする。
「効き目が続く期間は?」
「分からん。危ない薬だけあって、効き目が切れない事もある」
「解毒剤も無し?」
「あっても飲めんだろう」
あ、と理解したグレイは、ため息を吐きつつ天井を見上げた。身体と精神は表裏一体でも、ヤーラにはすでに身体はないのだ、薬を飲めるわけがない。
「相手は妖精だ、キッパリ振ってやった方がいいと思うよ」
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