レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 1


 食事の風景が質素になってきたと、レイサルトは思った。祖父である前皇帝クロフォードが生きていた五年前、自分が十歳の頃までは、溢れんばかりに花が飾られ、それに負けないくらいの料理が並んでいた。
 今は皿の数も半分ほどに減り、珍味だと言われる食べ物は、たまにしか見なくなった。とはいえ、朝日が白いテーブルクロスを輝かせているので、むしろ華やかで穏やかな空気が、そこにある。
 料理が少なくなった分だけ出入りする使用人も減っているため、部屋は落ち着きを増していた。と言っても、両隣には二人の弟、レンシオン、レファシオがいるし、父フォースと母リディアの間には八歳になったばかりの妹、リヴィールがいる。おまけにジェイストーク、イージス、ソーンもいるので人数は多い。
 五年もの時間をかけ、日常が少しずつ変化しているのをレイサルトは感じていた。父が皇帝を継いでから、他に変わったことはないかと考えを巡らせ、レイサルトは両親の服装に目を留めた。テーブルの上と同じように、服装にも飾り気が無くなっている。
 経済状態はむしろよくなっているので、質素にしなければならない必要はない。式典や行事などでの礼服は昔と変わらないため、庶民の目には変化など無いように見えているだろう。皇帝になったからこそ、メナウルの騎士と聖歌ソリストだった両親らしい生活を追求できるようになったということか。
「どうした?」
 いつの間にかフォースがこっちを向いていた。レイサルトはその視線と向き合う。
「いえ。なんでもありません」
 解決したことを、わざわざ確認する必要はない。レイサルトが苦笑を返すと、フォースは軽くうなずいて食事に戻った。
 忙しいはずのフォースだったが、家族で食卓を囲んでいる時はいつも余裕の笑みを浮かべていて、逆に暇そうに見える。レイサルトはそれをジェイストークに言ってみたことがあったが、その方が話しかけやすいからでしょう、と返された。そして、それをイヤだと思われたなら反抗期ですよ、とも。

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