レイシャルメモリー後刻
第16話 この街道の果てまで 62


「にしても、親子揃って取り憑かれやがって」
 グレイがニヤッとした笑みをフォースに向けた。フォースはため息をつきながら、笑いをこらえているサーディとグレイを横目で見ている。
「あら、まだ立ちっぱなし? お茶よ、座って座って」
 アリシアがトレイにお茶を乗せて戻ってきた。
「そうそう、まだ神の守護者の話を聞いていないんだけど?」
 その声に、みんなが思い思いの席に着き、アリシアが持ってきたお茶を片手に、フォースの話に耳を傾ける。 レイサルトにとっては、すべてがおとぎ話のようにしか聞こえなかった。感情を入れ替えるなど、どういう状況なのか想像も付けられない。ただ、今回自分が一緒に行ったとしても、何もできなかっただろうことは理解できた。
「彼らは結局、シアネルの北部に移住することになったんだ。準備がしてあったのかと思うほど、すぐに行動を始めていた」
 フォースの言葉にサーディが、へぇ、と声を上げた。
「それは早いな。もしかしたらディーヴァ山脈が切れたところまで行けば、ライザナルの援助も期待できる、と考えているとか」
「いや、彼らは自立している。助け合いという点では援助もするかもしれないが」
 フォースの自信に満ちた顔を見て、グレイが安心したように息をつく。
「いい関係を続けていけそうなら、そりゃよかった。神については、今まで散々利用された形だったからな」
「だけど、それでよかったんだ。そうじゃなければならなかったんだ」
 そう言うと、フォースはリディアと柔和な笑みを交わした。
 やはり父は強い人だとレイサルトは思った。それでも時折見せる子供っぽい部分を考えれば、生まれてきた時はただの赤ん坊で、たぶん自分とあまり変わらなかったのだろうと推測できる。父が努力を重ねてきたように、自分も成長することをあきらめなければ、同じように強くなっていけるのかもしれない。
 レイサルトは穏やかな空気に満ちた部屋を見回した。両親、サーディ、グレイ、アルトス、ジェイストーク、アリシア。彼らも生きている限り歩んでいくのだ。
 彼らや他の人々が生きてきた道は、街道となって足元に存在している。そして自分もまた、この街道に立っている。
 今、父に追いつくことは、どうやってもできない。だが、この街道をたどって進んでいけば、いつか父が見ている世界を見ることができるに違いない。
 レイサルトは手にしたお茶の残りを、一気に喉に流し込んだ。それは身体の隅々まで染み渡り、心の隅々までうるおしていった。

☆おしまい☆


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