レイシャルメモリー後刻
第9話 気力能力適材適所 1


 領主になってしまえば、誰をどこに就けるなど、完全に人任せになってしまうのだろう。だが今は見習いの立場だ。俺は、軍の生活が分かっていても城の生活には疎い。むしろ、人員の配置に関わって、どれだけの人員が必要なのか把握できるようにしなくてはならなかった。
 もちろん兵を雇うための面接にも顔を出している。ここ、ルジェナ・ラジェス領を発展させるためにも、できる限りそこに住む人間を雇おうと、タスリルさんと話が付いていた。
「お世話になっております。ノルドの兄でオルニと申します。いつも弟を気に掛けてくださり、ありがとうございます」
 面接の際、そう言って頭を下げた兵士の態度は、非常に真面目に見えた。
 ノルドといえばペスターデの下で、山の中腹にある畑や、城の庭を世話をしている十四歳の男の子だ。最初に会った時、リディアの手を振り回すような勢いで握手をしていたので、嫌な印象を持った。だが今は、真面目に働く子だと分かったし、リディアに接する時の礼儀も覚え、そこそこ信頼を置いている。
 そのノルドの兄だというオルニは、手元にある資料に二十歳と記載されているように、外見は俺とあまり変わらない歳に見え、態度も真面目だった。その上初めから礼儀作法もしっかりしているので、イージスの下に就くことが決定した。
 だが、時が経つにつれて気になってきたことが一つだけあった。行動や視線がリディアに向きすぎていることだ。憧れだの尊敬だの、そういった感情ならかまわない。だが最近は、オルニの俺に対する敵意のようなモノを感じるようになったのだ。
 それは間違いなく恋愛感情だ。他になにも分からなくても、危ない匂いには敏感にできている。俺はこういう奴らからリディアを守ってきたのだから。
 だが、何も落ち度がないうちから移動を決めてしまっていいものだろうか。なんだか俺が単に嫉妬しているようにさえ感じる。
 それでも、ことが起こってからでは遅いのだからと、オルニはペスターデの研究所に通ってもらうことに決めた。城への出入りは俄然少なくなるだろう。俺自身が人事に関わっていて幸運だったと心の中で舌を出した。オルニの配置を換えるための書類が揃ったその時、慌てたイージスが執務室に入ってきた。
「リディア様の行方が分かりません。現在捜索しております」
 リディアは疲れたから少し休むと言って、部屋に向かったはずだった。それがその報告だ、とっさには息もつけなかった。怖々顔を上げたイージスを見て、やっと声が出る。
「部屋を見張っていなかったのか?」
「兵士をつけていたのですが、いつの間にやら、もぬけの殻に……」
 聞こえていたのだろう、奥の部屋のドアが開き、タスリルさんが顔を出した。
「城内には居るよ」
 視線を向けると、タスリルさんは斜めにうなずく。

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