レイシャルメモリー後刻
第9話 気力能力適材適所 2


「今は無事だが、体調がねぇ」
 この城はタスリルさんの術で守られているといわれ、敵意のある人間は入れなくなっているらしい。だが術が目に見えないだけに、信頼だの人望だのが根にあるような気がして怖い。しかも、横恋慕は基本的に好意だ、などとタスリルさんは言っていた。完全に安全とは言い難い。
「オルニはどうしている?」
「は? なぜオルニのことなど」
 名前を出したことで意表を突いたのか目を丸くすると、イージスは眉を寄せて考え込む。
「確かにオルニから他の兵士に交代はいたしましたが。……、まさか、連れ出してから交代を」
 イージスはオルニが怪しいなどと、想像もしていなかったようだ。
「ノルドを探すと言って交代したという報告を受けておりましたが」
 その言い訳めいた理由に、なんだか背中がゾワゾワする。もしオルニが連れ出したとしたなら、イージスが裏をかかれていることになり、悪意があることも充分に考えられるのだ。リディアの行方が分からないうちは、心穏やかでいられない。
「リディアを探してきます」
「行っておいで」
「何か分かったら連絡をお願いします」
 俺はタスリルさんにそう言い残して部屋を出た。イージスも後から付いてくる。廊下をいくらか進むと、掃除をしに来てくれている女性が目に入った。こっちに気付いて頭を下げたその人の側へ行く。
「リディアを見ませんでしたか?」
 顔を上げたその女性は、見ました、とうなずき微笑んだ。
「オルニと一緒に部屋から出ていらっしゃいましたよ。ノルドを探さないとと言いながら」
 当たりだ、と心の中で舌打ちする。
「その時交代の兵はいましたか?」
「いえ、まだ。一人でいては危険だから、一緒にいらしたのですよね?」
 女性の問いを苦笑でごまかす。危険なのは勝手に部屋から連れ出すその男の方なのだ。
 他の兵が居ないところを狙ったということは、オルニが単独で動いている可能性が高い。大掛かりな犯罪でないなら少しは安心、などとは思えないが。
「どっちへ?」
 俺は話を修正して先を促した。
「庭の方へ歩いていかれました。オルニったら、心配だとか言いながら、凄く嬉しそうに」
「どうも」
 黙って聞いていられずに、話を切り上げた。そのまますぐ庭へ出る扉へと向かう。
 リディアとオルニの様子を詳しく聞いておいた方がいいのかもしれないが、その女性が笑って伝えられるのだから、まだ危険な状況ではないのだろう。それよりも一刻も早く探し出さねばならない。

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