レイシャルメモリー後刻
第12話 寝ても覚めても 1
ジェイストークが背を向けてドアに進む。そのまま退室してくれれば、ようやく二人きりになれる。
「あ、シェダ様が、明朝こちらに到着されるとのことです」
その言葉に、思考が止まった。
「……、またか」
「は? レイクス様、何かおっしゃいましたか?」
ジェイストークには絶対聞こえただろう。それを知らない振りしているだけだと思う。
「いや、なにも」
「それでは失礼いたします」
ジェイストークがいつものようにお辞儀をしてドアの外に消えた。振り返ると、リディアはソファに座ったまま、可笑しそうに控えめな笑みを浮かべている。
「聞こえた?」
「ええ。でも本当に何度来るつもりかしらね。お腹にいる間は、何も変わらないのに」
実際あまり変わりなくは見えるが、リディアのお腹は日々大きくなっているように思える。いや、着々と成長してくれていい子だなんて、ずいぶん都合のいい見方だということはよく分かっている。でも、少し間を開けて合う親や友人が、また大きくなった、と言うのは、毎日少しずつでも成長しているからなのだろう。やっぱりいい子じゃないか。
「でも、子供だけじゃなく、リディアにも会いたいんだろ?」
「そうかも。この間なんて、お腹を見て言ったのよ。こんなにしやがって、って」
「え」
そりゃやっぱり、俺に腹を立てて言ったのだろう、背筋がゾッとした。リディアは軽い笑い声を立てる。
「そんなに心配しなくても大丈夫よ。私が幸せでいるなら、何も言えないんだもの」
そりゃあ確かにそうだろう。俺はうなずいてみせた。だけど、そうしていられればシェダ様に怒られないからではなく、お腹の子供もひっくるめて、純粋に幸せにしてやりたいと思う。当然、自分も含めてだけど。
リディアが口元に手をやり、あくびをした。立ち上がろうとするリディアの手を取って引き、身体を支える。
「眠たそうだ」
「もうね、身体が重いのよ。すぐ疲れちゃって」
リディアのベッドまで付き添った。寝具をどけて寝かせると、リディアは自分の隣をポンポンと叩く。
「え?」
「ここにいて」
小さく笑い声を漏らしながら、リディアはそう言って微笑んだ。
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