レイシャルメモリー後刻
第12話 寝ても覚めても 2


「だけど、もし寝ちゃって、蹴飛ばしたりしたら大変だ」
「大丈夫よ」
 そう言うと、リディアはこっちに背中を向けた。寝相が悪いんだから我慢しろとタスリルさんに言われていたが、それなら確かに大丈夫そうだ。リディアの隣に身体を横たえ寝具をかける。そうしてからリディアの頭を腕に乗せ、後ろから抱きしめた。リディアはまたクスクスと笑い出す。
「背中合わせじゃないのね」
「あ、そうか。でも、これでも大丈夫だろ?」
 そう聞くとリディアは、ええ、と返事をして、俺の手をお腹の上に置いた。
「もう上を向いて寝たら苦しいのよ。お腹につぶされているみたいで」
「お、お腹につぶされ……?」
「だから、早く産みたいの」
 俺は返事のかわりに笑った。笑うことしかできなかった。子供を産んで亡くなってしまう母親も多い。どうか無事に産んでくれ、産まれてくれと、祈ることしかできない。生きてさえいてくれれば、必ず幸せにしてやる。目一杯努力してやるから、だからどうか無事に……。

   ***

 今朝はまた、なんて懐かしい夢を見たのだろう。そう、娘がまだリディアのお腹にいた頃の夢だ。無事に産まれてくれるか、ひどく不安に思っていた。
 娘のことは、ずっと愛している。産んでくれたリディアに対する愛情と似てはいるが、また違った別の愛情がある。
 女の子は十二歳という歳でも、大人なんじゃないかという面が垣間見られる時がある。初めて会った時のリディアが十二歳だった。同じ歳になった娘は、俺の血が入っていてもその頃のリディアに似ていて、とても可愛らしい。親バカ? ああ、これだけ可愛ければ親バカにもなるさ。当たり前だろう。
 その娘がまだ帰らないと聞いて、仕事が手に付かなくなった。残りを部下に任せて街中を探す。一時期よりは全然ましだが、場所によっては治安も悪い。早く探し出さなくては安心できないのだ。
 ふと、娘の髪と同じ色が目に入ってきた。隣には十四、五くらいのどこかで見たような男がいる。何をしていると声を掛けようとして、娘の恥ずかしそうに頬を赤らめた表情が目に入った。思わず建物の陰に身を隠す。

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