レイシャルメモリー後刻
第12話 寝ても覚めても 3


 隣の奴のだろうか、娘は大きなシャツを着ていた。スカートが汚れているように見えたのは、気のせいではないだろう。とにかく二人は戻る道をたどっている。無事にたどり着き、俺は後から居間に入った。俺を見つけた娘が駆け寄ってくる。
「お父様、お仕事は?」
「これから市場に行くんだが。一緒に行くか?」
「本当? 着替えてくるわ、待ってて」
 喜んで顔を明るくした娘は、部屋に入っていった。
「助けてもらったんですって」
 事の次第を聞いて、その男に感謝はした。が、リディアが言った、娘がその男を好いているんじゃないかという言葉には閉口する。そんな感情を持つには、まだ早いだろう。いや、持ったとしても、あいつさえ手を出さなければ大丈夫かもしれないが。
 着替えてきた娘と市場に向かう。市場はいつものように結構な人出だった。当然迷子にならないように、娘とは手を繋いでいる。華奢で小さく柔らかい手だ。リディアには甘すぎると言われるが、キラキラした目で見つめているモノがあったら、買ってやりたくなるのが普通だろう。甘やかしてはいけないという思いが非常に辛い。
 ふと、娘と歩いていた男の顔が目に入った。知らない女性が隣にいて笑い合っている。そいつは俺を見つけると、真面目な顔で敬礼をした。
 そういえばあいつは騎士になったのだそうだ。だが、敬礼だけ真面目でも、やっていることは全然真面目じゃないだろう。思わず笑ってそっぽを向く。あいつがいることを娘に気付かれる前に、ここを離れた方がいい。城に出向かなくてはならない用事もあるのだから。
 城に行ってから、見せた方がよかったかと後悔した。その城で娘の命が狙われたのだ。護衛をつけると言ったらひどく怖がる娘を、なんとか納得させられたのは、娘が唯一知っている騎士のあいつだけだった。俺にしてみれば、どっちが危ないのだか分からないのだが。
 そして、犯人の目途が付いたと知らせがあり、娘が暴漢に四階から落とされたと報告を受けた。だが、慌てて駆けつけて見たのは、死んだように眠るあいつを看病する娘だった。帰らせようとしたが、テコでも動かない。
 あいつの親も来て、結局あいつは意識を取り戻した。また前線に戻っていったが、やはり娘と何かあったのかもしれない。まさか娘に直接聞くわけにもいかず悶々としているうち、また事件が起きた。娘が降臨を受けてしまったのだ。
 身体でつなぎ止めるようなことはされていなかったとホッとする。だがそのかわり、娘が心底あいつに惚れているのだと逆に知ってしまった。

4へ


前へ シリーズ目次 TOP