レイシャルメモリー後刻
第12話 寝ても覚めても 4


 あいつは娘の護衛に慣れている。娘の身を考えると、あいつに任せるしかないと思った。女神がいるのだから、下手に手を出すこともできないから、進展はしないはずだった。だが、安易に身体を繋げることができないことで、逆に絆を深めてしまったのだろう。
 結婚式の生成りの衣装は、とても華やかで清楚だ。頬をほんのり染めて初々しい姿は、もうリディアそのものじゃないか。
 透き通った布が被せられ、娘は幸せそうにあいつとキスをする。サーディがあんな布を作らなかったら、これが流行ったりすることなく、娘のキスなど見なくて済んだモノを。
 これで、娘に対しての私の役割は終わりか。いや、あいつが娘を大切にしているか、見張っていなくてはならない。顔を見せるだけでも、悪事をはたらかないための抑止力にはなる。目を離すわけにはいかない。
「フォース?」
 娘の姿が、涙でかすんでいる。
「フォースったら」
 悔しいから涙が出ているわけではない。ドレスを着た娘が、あまりにも綺麗だから感動しているだけだ。
「フォース、ねぇ、起きて」
 隣にいるリディアは、涙でかすんでボーッとしている。ハッキリしてくるその顔は、娘? 違う、リディアだ。俺の大切な……。

   ***

「んぁ? リディアが若い……?」
「やだ、フォースったらなに言ってるの? まだ起きてないんでしょう」
 そう言うと、目の前にいるリディアが、俺の鼻をつついた。ボーッとした頭が少しずつハッキリしてくる。
「え? 夢? 子供が生まれて大きくなっ……、あ」
 子供どころか、手が触れているリディアのお腹は大きいままだ。窓から明るい光が差し込んできていて、すでに朝なのだと気付く。
「夢、だったのか?」
「そうよ。きっとそう。どんな夢を見ていたの?」
 リディアは穏やかな笑みを浮かべ、俺を見つめている。触れた指を引き寄せて、リディアの手を握った。どんな夢って、娘が産まれて大きくなって、好きな奴ができて。娘の気持ちがどんどん離れていって、そしてそいつと……。
「夢じゃなきゃ困るんだけど」
 そう言ってから、それが夢だと困ることに気付く。お腹の子が生まれて、もしかしたら女の子で。いつまでも人を好きになることを知らなかったら、寂しいに違いない。娘の幸せを考えたら、心を通わせる相手ができて、……ってか、今考えたら夢で見た娘はリディアで、その相手は俺だったんじゃ。

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