レイシャルメモリー後刻
第2話 起きて見た夢 1
緑が濃い森の中、馬が通れる程度の手入れをされた道が続いている。右手前方に、それほどの高さはないが、美しい岩肌の崖が見えてきた。
騎乗用の軽い鎧を着けて手綱を取る腕の中で、寄り添うように身体を預けていたリディアが首をもたげ、その崖に目をやる。
「綺麗ね。曇っていなければ、もっと綺麗だったかも」
「ああ。だけど崖が道に近すぎる気がしないか?」
俺は出発する前に見せられた地図と、今の場所を記憶の中で照らし合わせた。今通っている道は、その地図だともう少し崖から離れていたはずだ。
「でも、この道をまっすぐって言われたわ。脇道も無かったし」
「そうなんだよな。そういえば、このあたりで山賊が出るとか言ってたっけ」
俺の言葉に、リディアは特に表情を変えることなく、ええ、とうなずく。信頼してくれるのは嬉しいが、あまり大勢で出てこられたら本気で危ない。戻るべきだろうかと思ったその時、あそこに、とリディアが前方を指差した。木々の上に、塔の先端が見え隠れしている。
「城だ。そういえば地図にもあったな。わりと近そうだ」
「そこで道を聞いてみましょう」
「だな。違っていたとしても本来のルートに戻る道が、この先にあるかもしれない」
リディアは、ええ、と返事をして俺を見上げた。しっとりと潤ったピンク色の唇に触れるだけのキスを落とすと、リディアは柔らかな笑みを浮かべ、また前方へと視線を向ける。
「あ、雨だわ」
リディアの言葉に周りを見ると、鎧の肩プレートが雨粒に打たれてプツッと音を立てる。すぐに雨音の間隔が狭まってきた。俺は後ろに積んだ小さな荷物から、ローブを取り出す。
「急ごう」
俺はリディアを抱き寄せ、頭からローブを被って、馬を進めた。
***
道の右側にあるその城は、個人所有の割には結構な大きさがある。白く大きめの石でできていて、角の部分を赤い石で飾り付けてあるという、一見して可愛らしい外観をしていた。扉のない門をくぐって馬を降り、堅い木でできたアーチ型の扉をノックする。
少しして扉が開かれた。半分白髪でグレーの髪をした初老の男が、目を見開いてリディアを見つめる。
「どちら様でしょうか」
「旅の者です。道を教えてください。できれば、雨が上がるまで雨宿りさせていただきたいのですが」
「……本当に?」
返された質問を不思議に思いながら、ええ、と返す。
「お客様に失礼ではないか」
声のした階段の上方を見ると、三十になったかならないかくらいの、細身で身なりのいい男が降りてきた。応対してくれていた初老の男が俺たちに深々と頭を下げる。
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