レイシャルメモリー後刻
第2話 起きて見た夢 2


「申し訳ございません」
 初老の男は、まだいくらか頭を下げたまま後ろに引き、階段から下りてきた男が前に出た。
「城主です。執事が失礼をいたしました。でも、どうか分かってください。そちらの女性が、つい最近亡くなった私の妻によく似ているのですよ」
「奥様に……」
 リディアがその奥方に似ているから、その親族だと思われたのだろうか。俺とリディアは、なんと答えていいか分からずに、顔を見合わせた。
「あ、お気になさらず。どうぞ中へお入りください」
 どうぞこちらへ、と城主が廊下を指し示し、奥へと歩き出す。俺とリディアはその後に従った。
「どちらからいらしたのですか?」
「ルジェナです」
 俺の答えに、城主はハタと思いついたように手を叩き、ああ、とうなずく。
「数日前に王族の結婚式があったとか。ご参列されたのですか?」
「ええ、まぁ」
 はたして結婚した当人を参列者と呼んでいいモノかと思ったが、まさかルジェナからラジェスへの密行の途中で、本人ですと答えるわけにはいかない。やはり、意地でも前から持っている使い古した鎧を着けてくればよかったと、今さらながら後悔する。
 通されたのは、応接室だった。ドアを開くと、正面の壁、大きめの二つの窓に挟まれた場所に、女性の大きな肖像画が飾られている。これが城主の奥方の肖像画なのだろう。確かにどこかリディアに似ている。その下には、控え目だが上品な調度品が数点飾られた棚があり、部屋の中央には金箔が織り込まれた布地張りのソファーと、美しい木目のテーブルが置かれている。俺とリディアは、勧められるままソファーに座った。
「あなたに似ているでしょう?」
 肖像画を指差した城主に、リディアは、そうですね、とだけ返している。こんな聞かれ方をしたら、うなずく以外にない。
「失礼します」
 戸口から声がして、丸めた地図を持った執事が入ってきた。城主に指図を受け、テーブルにそれを広げる。城主は身を乗り出すと、地図を指し示す。
「ルジェナはここです。ラジェスはこちらで、この城はここに。ここをまっすぐ行かねばならないところ、右の枝道に入られたのでしょう。何か他のことにでも気をとられていらしたのですか? 見落とされるなど、よほどのことだと」
 気をとられることなど、何もなかった。やはり道を見逃していたのだ。しかも、どうしてわざわざ脇道に入ったのか分からない。
「ここまで一本道だと思っていたくらいで。本当にどうして分からなかったものやら」
「奥様に見とれていらしたか」
 城主はそう言うと控え目に笑い声をたてた。いくら見とれるといっても、道一本、しかも街道を逸れるなど考えられない。俺は苦笑して話を濁した。

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