レイシャルメモリー後刻
第2話 起きて見た夢 3


「この先、もとの道に繋がるルートはあるでしょうか」
「いえ、この先は裏手の崖を越える道になっています。来た道を戻られるしか」
 城主の言葉に、そうですか、と答え、心配げな瞳で見上げてくるリディアと目を合わせた。
「行きましょう。今日中にラジェスへ着くには、急がなければ」
 俺がうなずきかけた時、城主が、しかし、と口を挟む。
「今からですとラジェスへ着く前に日が落ちてしまいます。雨もあがりそうにないですし、一晩泊まっていらしてはどうですか?」
「ですが、これ以上ご迷惑をおかけするわけには」
 行方不明が一日だけでも、ラジェスで待っているジェイには間違いなく心配をかけてしまう。できることなら無理をしてでも、今日中にラジェスまで行きたい。だが城主は、何かあっても、と苦笑した。
「このあたりは山賊が出るので危険です。迷惑など露ほどにも。それに、実はこの城は妻が利用していたものなのです。どこを見ても妻を思いだしてしまう。寂しがっている私を気遣って、あなた達がこちらへ寄っていただけるようにと、妻が機会を作ってくれたのかもしれません」
 俺は思わず肖像を見上げた。亡くなったのはつい最近だと言っていた。この城主がこんな風に気にするのも仕方がないことかもしれない。それに、実際日が落ちて山賊に襲われでもしたら、危険極まりないのだ。
「では、お言葉に甘えさせていただきます」

   ***

 執事が運んでくる夕食をご馳走になり、城主の酒に付き合い夜も更けてから、隣り合った二つの部屋へと案内された。部屋は中にある一つのドアで繋がっていて、廊下側には鍵をかけられるようになっている。よくある夫婦用の部屋だ。
 部屋まで案内してくれた執事は、俺に二つのランプと鍵を手渡し、深々とお辞儀をして元来た方へと戻っていった。俺はすぐに二つの扉の鍵を閉め、短剣をリディアが泊まる方の部屋のドアに立て掛ける。リディアの所へ戻ると、不安げに俺を見上げてきた。
「フォースも何か変って思ったの?」
「え? あぁ、剣か? いや、特に怪しいとか思った訳じゃない。ああしておくと、ドアを開けると盛大な音がするから、とりあえず安心だろ」
 俺の言葉に苦笑すると、リディアは眉を寄せた。
「何? 怪しいって思ったのか?」
「こんな城に住んでいるわりには、粗野だったと思わない? じろじろ見られた時には気味が悪かったわ」
「けど、このあたりは田舎だから。肖像にもいくらかは似てたしな。驚いても特に不思議じゃないだろう」
「そうだけど……」
 まだどこか心配げなリディアの髪を、俺はそっと梳くように撫でた。柔らかで弾力のある感触が伝わってくる。

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