レイシャルメモリー後刻
第15話 三度あることは四度ある 1


 私が風に降ろされたのは、城壁に囲まれた城の前庭、なのだと思う。そこには、あっけにとられてこっちを見ている人間が四人いた。
 二人は豪華な飾り付きのお揃いを着た恋人か夫婦で、きらびやかさ加減から、たぶん少なくともどっちかが城主さんだと思う。美しい姫様と、姫様を救ったちょっと地味な騎士が結婚しましたよ、といった童話の挿絵みたいな雰囲気だ。そして鎧に身を包んでいる残りの男女二人は、護衛といったところだろう。
 その挿絵みたいな光景が、絹を裂くような声と共に引き裂かれた。私が裸で風から降り立ったのが普通じゃないことに気付いたのか、姫様が悲鳴を発したのだ。姫様はなぜか隣にいた王子を突き飛ばし、私の所へと駆け寄ってきた。
「とりあえず、これで……」
 姫様は、肩からかけていた大きなショールで、私の身体を隠してくれる。裸で無防備だった身体への視線がさえぎられ、私は少しだけホッとした。
「ありがとうございます」
 姫様がうなずくと、柔らかそうな琥珀色の長髪がフワッとなびく。その向こうで、よろけた体勢を立て直した王子が、刺すような視線を向けてきた。
「てめぇ、まさかシャイアじゃねぇだろうな」
 その名前に姫様がビクッと身体を震わせ、私を見る目が怖いモノでも見ているような視線に変わる。
「リディア様」
 女性の方の護衛さんが、私と姫様との間に立った。ここで否定しないと、敵として認定されてしまいそうだ。私は慌てて首を横に振った。
「私はテルといいます。シャイアって人と似ているのかもしれませんが、無関係です」
「は? なんにも知らないんだな。ありえねぇ」
 王子がそう返してくる。世界も人も、見た目や先入観に囚われちゃいけないけど、さっきからひどい言葉遣い。
「シャイアって?」
「シャイア神、隣国であるメナウルの女神の名前です」
 側に立った女性の護衛さんが、そう教えてくれた。隙のない感じだけど、その言葉には柔らかさがあって優しい響きを持っている。
「もう少し口の利き方を考えろ」
 スチールグレイの鎧を着たもう一人の護衛さんが、王子っぽい人の背中をどついた。なんか、護衛さんの方がよっぽど偉そうな態度なんだけど。
「バカ言え。いかにも怪しい人間に、どなた様でしょうか、とか無い」

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