レイシャルメモリー後刻
第15話 三度あることは四度ある 3
王子もどきも、その点疑問なのか、姫様をのぞき込むように見つめる。いや、ちょっと待って。本当に疑問だったら、姫様が何も言わないうちに裸を見たから拗ねてるって、どうして分かったのよ。胡散臭いわ、この王子。
「今回ので三度目よ。リーシャさんの時も、踊り子さんの時も……」
あ、そうか、と王子もどきはポンと手を打った。ホントに三度もあったってこと? それなら忘れるんじゃないわよ。確かに、不可抗力も三度繰り返せば、故意にも感じるかも。拗ねる気持ちは、……、ちょっと分かんないでもないかな。
「でも俺、一番最初に見た、リディアが降臨を受けた時のが一番強烈だったよ」
王子もどきの言葉に、姫様の顔がみるみる赤くなった。あれ? ってことは四度目なんじゃないの? 全部不可抗力だとしても、なんかもうそれって"神様に愛されたスケベ"ってことかしらね。王子もどきは姫様の腕を引いて正面から向き合った。
「俺が愛しているのはリディアだけだ。誰のを何度見たって、リディアのよりも綺麗に見えるわけがない」
そんな台詞、真剣な顔して言わないで。誤解が解けて無くて怖いのに、あっけにとられて顔の筋肉が緩んじゃう。
「本当に?」
って、姫様の目にも、まわりは映っていないみたい。
「ああ、当たり前だろう。俺にとってはリディア以外の胸に価値なんか無い」
偉そうな男の護衛さんがいかにも、嘘をつけ、と言いたげな視線を向けているけど、王子もどきは全然かまわずに姫様を抱き寄せて唇を合わせた。
なんだろう、この安心感。王子もどきが本当に、姫様の胸以外は、なんて思っているかは分からないけど、愛する人にとって特別でいたいのは、女の子だけじゃなく誰でも同じだと思うからかな。この王子もどきが口をきかなきゃ、やっぱり童話の姫様と、姫様を救ったちょっと地味な騎士みたいに見えてしっくりくる。あ、そうそう、新人の王子って感じ。
王子もどき、姫様に嫌われたくなかったら、姫様を特別だって思う気持ちを大切にしなきゃだわね。まぁこの王子もどきが"神様に愛されたスケベ"なら何をしても大丈夫かもしれないけど、いつまでもそれに甘えてちゃ駄目よ。
偉そうな護衛さんの冷たい視線で我に返った時には、私、顔の筋肉を全部使ってニタニタと笑っていた。逆に優しい笑みで見つめてくる女性の護衛さんにごまかし笑いを返し、その時に口から出た小さな息が、風に成長していくのを感じた。
私の身体がその風にすくわれた。姫様のショールが風をはらんで舞い落ちる。そろそろこの世界ともさようならね。新人の王子、姫様といつまでも仲よくね。意識が白くかすんでいく中で、私は次の世界に思いを巡らせた。
☆おしまい☆