レイシャルメモリー後刻
第1話 手放して得た幸せ 1


 数ヶ月前、俺は彼らの結婚式用に大きな布を特注した。
 メナウルの結婚式では、大きな白い布を新郎新婦にかぶせる、なんてコトをする。新しい一つの家庭という範囲の象徴という意味があり、たいてい中でキスしているらしい。その時に使うモノだ。
 そう、特別注文だ。普通なら白い木綿の布を使うのだが、注文したのは向こう側が透けて見えるくらい薄い絹織物なのだから。
 宝飾の鎧に身を固めた俺の友人は、広げられたその布を観て呆気にとられ、横で可笑しそうに笑う恋人に腕を引っ張られている。あぁ、恋人じゃないか。彼らはもう夫婦になったのだから。
 透き通った布をかぶせられた彼らは、なんのことはない、普通に抱擁してキスをかわしている。いや、そうするだろうと思ったから、こんなイタズラができたのだけれど。
 彼らのキスに、自然と頬が緩む。俺の隣からもクスクスと楽しげな笑い声が聞こえた。透き通った布にしようと共謀した女性だ。
「綺麗ですね」
「ああ」
 たぶん彼女は花嫁のことを言ったのだろう。だが、俺が綺麗だと思ったのは、頬を上気させて壇上にいる二人を見つめている彼女の方だ。
「神職に就くって、正式に届けを出したんだね」
「はい。帰ってすぐに洗礼を受けます」
 そう言いながら、彼女は少し困ったような顔をする。それは俺を振った罪悪感なのだろうか。
「おめでとう」
 その言葉に、彼女は俺を振り向いた。
「ありがとうございます」
 微笑んで頭を下げる。その時、彼女は小さく、ごめんなさい、と付け加えた。

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