レイシャルメモリー後刻
第1話 手放して得た幸せ 2


 謝られる筋合いはない。でも、彼女がそれで幸せなら、きっとその方がいいんだろう。
「きちんと断ってくれて、感謝してるんだ」
 それは嘘ではない。国を引き継がなくてはならないという義務感に縛られ、恋愛感情など持てずに一生を終えるのだと思っていた。そのこごった気持ちを揺り動かし、溶かしてくれたのは彼女だ。そして、ここからまた始まるのだと教えてくれたのも彼女なのだから。
「でも。少しの間でしたけど、サーディ様のそばにいられて幸せでした。会えなかったら私、ずっと嫌な女だったと思います」
「でも俺は、フォースに対して一生懸命なのが可愛いと思ったんだ。嫌だなんて思わなかった」
 俺の言葉に、彼女は頬を赤くして壇上に視線を戻した。たくさん灯された明かりを反射して、宝飾の鎧が花嫁のドレスを美しく輝かせている。
 神官が式の終わりを告げ、ワアッと歓声が上がった。参列者がそれぞれ手にしていた花を、真ん中の通路を通っていく二人に投げる。それを集めて花嫁に手渡せば、神殿の外に出られるってわけだ。
 この式が終われば、彼女とはお別れだ。きっともう会うこともないだろう。そう思いながら、俺も手にしていた花を投げた。
 その花は弧を描いて宝飾の鎧の足元に落ちた。その手が花を拾い上げ、花嫁を連れたまますぐ側まで来る。
「この布、サーディの時まで大切にとっておいてやるよ」
 俺が結婚するなんて、そんな時が来るんだろうか。
 いや、来るかもしれない。俺でも人を愛せる。それが分かったのだから。
「バカ言え。新しいの寄こせよ」
 その言葉の意味が分かったのだろう、フォースは可笑しそうに笑うと、花を花嫁に手渡した。

☆おしまい☆

※瀬生曲さまのリクエストで書かせていただきました。ありがとうございました。m(_ _)m

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