レイシャルメモリー 1-02


 バードの後ろには、ダークグレイの鎧に身を包み、剣の柄に手を添える形で立つ騎士がいた。漆黒の瞳と肩までのまっすぐな黒髪を少しも揺らすことなく、バードの動きに気を配っている。その姿は、がっしりとして背が高く、飾りの鎧とはまた違った存在感がある。
 ふと、クロフォードが軽く手を挙げた。カチャッと鎧の男が立てた剣の音に、バードがビクッと身体を固くし、その声と音を押し込んだ。空気がピンと張りつめる。
 挙げた手を静かに置くと、クロフォードは肩が上下するほどの深い息で、場の静寂を破った。それからゆっくりと口を開く。
「この一節が、間違いなく神の守護者と呼ばれる一族の詩ならば」
 誰に聞かせるでもなく独り言のように言うと、クロフォードは前方でひざまずく男へと目を向けた。
「デリック、レイクスはメナウルにいるということだ。連れ戻せ」
「御意」
 緊張のあまりかすれた声を返し、デリックはグレーの頭をさらに下げる。それを目にすると、クロフォードは鎧の男に視線を移した。
「その一族を捜索するよう指示を出せ。アルトスは前線に戻り、レイクスを連れ戻した後、警護に入るがよい」
「御意」
 アルトスは低い声で答えると、最敬礼をした。クロフォードはうなずくと、今度は視線を左に向ける。
「ただ、気がかりがある。影とは、いったい何を指すのだろうな」
 皇帝の後方、逆光で陰になっていた窓の脇から、黒一色の神官服に身を包んだ男が進み出た。細身で着衣にとけ込むような黒髪に黒い瞳、皇帝クロフォードより少し年長のようだ。薄い唇にわずかな笑みをたたえ、うやうやしく、しかし頭を下げるだけの簡単な挨拶をする。
「所詮、影です。気にする必要はございますまい」
 頭を下げたままで表情の読みとれない神官マクヴァルの言葉に、クロフォードは疑心なくうなずいた。

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