レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第1部1章 降臨の障壁
2. 形見 01


 アルテーリア地方、メナウルとライザナル、この両国の間に、百二十年もの長い歳月を費やしてきた戦がある。
 ライザナルは太陽神シェイドの加護を受け、神々が住むと言われるディーヴァ山脈の西方、陸地の北方に位置する。その勢力はディーヴァの東に広がるシアネルにも多大な影響を及ぼす。
 一方のメナウルは、ライザナルの南側に隣接し、月の女神であるシャイア神に保護されている。気候は穏やかで作物の収穫も多く、戦があるわりに国民は豊かな生活を送る。
 双方、神の降臨により、その言葉を聞き、力を持った。シェイドは男神であるため、一度降臨すると長い年月同じ身体にとどまった。それに対しシャイアは女神であり、神経質に降臨を繰り返す傾向があった。そして現在、メナウルは五年もの間、シャイア不在の困難な時を送っていた。


「くそっ」
 フォースは二位の騎士の鎧にマントまでつけたまま、ドアを蹴り開けるようにして自宅の居間に入った。荷物で両手がふさがっていたのだが、手が空いていてもドアを蹴り飛ばしたに違いない。
 ヴァレスがライザナルに落ちた。王女の誕生会のために城都に戻ったフォースを追いかけてきた知らせは、大きな衝撃だった。ほんの五日前には、フォース自身も国境の町ヴァレスを守っていたのだ。犠牲者の多さにも打ちのめされた。こればかりは、戦をしているからと割り切れるモノではない。十四で騎士になって四年、これほどの大きな負けは経験がなかった。
 フォースは、片方の荷物をとなりの部屋に放り込んだ。転がって壁にぶつかったが、気にせずにドアを閉める。ダークブラウンの髪が濃紺の瞳の前で揺れた。
 メナウルよりもライザナルの方が、文句なく国力が大きい。それでも今までは、シャイア神が降臨さえすれば、たいした衝突も無しに国境を元の位置に押し戻すことができていた。そのためシャイアの降臨を望む声が大きくなっているのも、フォースには気にくわなかった。
 聖歌に青が歌われる部分がある。フォースの瞳が他に見られない濃紺なので、女神の使者のように言われることがあるのだ。宝飾品で固められた鎧を着る羽目になったのも、その鎧に飾られたサファイアという大きな宝石が瞳の色と同じせいだ。母譲りの目を嫌ってはいなかったが、鬱陶しいのも確かだった。
 手元に残したカバンの口を開け、椅子の上にひっくり返す。そこに衣類やらなにやら出てきて小さな山ができた。一番底から小さな鍵が落ち、その山で跳ねる。空になったカバンを床に投げると、その鍵を掴んで奥の部屋へ向かった。

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