レイシャルメモリー 2-02
鍵穴のある小型の引き出しに近づくと、鍵を差し込んだ。五歳の時に死んでしまった母エレンが、フォースが大きくなったら渡すと義理の父であるルーフィスに言っていたモノが入っているはずだ。今回初めて鍵を渡され、引き出しを開ける許可をもらった。だが鍵はきちんと奥まで入らなかった。開けてはいけないと父に言われ続け、それでも開けてみたくて隠れてイタズラをした記憶が随分ある。母の形見なのだ、気にならない方がおかしいだろうと毒づく。かがんで鍵穴をのぞき込んでみると、何か奥の方に入り込んでしまっているように見えた。
フォースは大きくため息をつくと、鍵を後ろに放った。引き出しを乱暴に動かして、とめてある金具の位置を調べ、短剣を抜いて引き出しの隙間に差し込む。奥の金具に刃を向けると、そのまま押し込んだ。ガチッと剣先が金具に当たって止まる。フォースは立ち上がると、その柄に蹴りを入れた。金具を止めたビスが一瞬の悲鳴を上げる。今度はかがみ込むと、短剣を鞘に戻し、取っ手を掴んで力任せに引っ張った。金具が内側に落ちる音と共に抵抗が無くなる。フォースは今までのうっぷんを晴らしたかのように、フッと息で冷笑した。
急いて壊してまで開けた割には、引き出しをゆっくりと引く。中には木製の箱が入っていた。手にすると、思ったよりもズッシリと重量がある。開けてみると、箱にそぐわないゴールドに反射する光が目に入ってきて、フォースは顔をしかめた。お守りを鎧の内側につけるための金具に似た部分があり、指先でつまみ上げる。そこから五本の鎖が繋がっていて、鎖の反対側に付いているほんの少し縦長の球体が持ち上がった。その表面には繊細な細工が施され、紺色の石がいくつかはめ込まれている。薄い木材でできた箱に重みはあまり残っていない。ほとんどが手にした宝飾品らしきモノの重量だったようだ。
期待していたのが、なんだかバカバカしくてため息が出た。これを渡してどうしたかったのだろう。宝飾の鎧に付けると合いそうだと思う。フォースにはそれだけ意味のない物に見えた。
元通り箱に入れて、引き出しにしまい込む。明日には王女スティアの誕生会がある。ヴァレスが落ちたこともあり、間違いなく規模は縮小されるだろうが、出なければならないことには変わりない。宝飾の鎧を付けてスティアのエスコートだ。こんなに面倒なことは他にない。
フォースは首にかけた鎖をたどり、星の形をした青い石に触れた。会いたい人は他にいる。この青い石、ペンタグラムと呼ばれるお守りを交換した人だ。その面倒な仕事を終えたら会いに行こうと、フォースは心に決めていた。