レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第1部1章 降臨の障壁
3. 宴 01
申し訳程度に縮小されはしたが、王女の誕生会は例年とほとんど変わりなく行われている。直前になって招待客を断る訳にはいかなかったこともある。だが表向きに変化がない方が、いくらかでも混乱を招かずに済むという思いが、メナウルの関係者にあったのは間違いない。
日頃あまり飾り気のない城内だが、今日は華やかだ。随所に色とりどりの花が飾られ、いつもの宴よりも若い招待客が様々な色合いの礼服で、緩やかに流れる曲に合わせて踊っている。日が落ちると、いつもの倍に近いだけの明かりが灯された。
フォースはその中にいた。金地に宝石がいくつもはめ込まれている鎧を着けているのと、二位という騎士の位を示す赤いマントのせいで、ひどく目立つ。しかも宴の主役であるスティアの相手なのだ。
フォースと、スティアの兄である皇太子サーディとは、学友としての付き合いが長い。そのためスティアとも馴染みがあるので、その点での緊張はなかった。だが目立つ格好で宴の主役と踊るのは、必要以上に人の視線を浴びる。フォースは、自身が王女スティアの装飾品なのだと、気持ちをはぐらかしていた。そうでも思っていないと、やっていられない。
仏頂面に近いフォースの表情と対照的に、スティアは楽しそうに笑みをたたえていた。会の主役らしく栗色の髪を綺麗にまとめて花飾りを付け、ふんわりと膨らませた白いオーガンジーのドレスを身に付けている。
「ホントに綺麗な紺色よね。鎧のサファイアと変わらないわ」
スティアは、鎧の胸プレート中央に付いた宝石を指で突いた。大粒なだけに、深い紺色をしたサファイアがある。フォースは思わずその石に目をやった。スティアは身体を寄せ、石を見下ろしているフォースの目を、そのブラウンの瞳で見上げる。フォースは口をつぐんだまま、迷惑そうに視線をそらした。
「話しかけるな。踏むぞ」
「私の相手をするのが面倒なんでしょ。顔にそう書いてある」
スティアはツンと口を尖らせて見せた。
「リディアはいいわよね。じっくりその目を見ていられるんだもの」
ギョッとしたようにフォースはスティアを見た。フォースは今まで、リディアと目の色の話をしたことがない。どう思われているのかと不安になる。フォースの驚き様に、スティアは苦笑した。
「やだ、知らないと思ってた?」
付き合いがあることは間違いなく知られていると思っていたが、フォースは首を縦に振った。リディアがこの目だけを見ているのではなどというバカげた懸念を、スティアに悟られたくなかったからだ。
「兄が羨ましがっていたのよ。その話を聞いたら私、リディアとは友達だから、いろいろ問いつめてみたくなっちゃって」
イタズラな笑顔を向けて、スティアはクスクスと喉の奥で笑い声を立てた。フォースは何も言わずにため息を返す。