レイシャルメモリー 1-06
リディアはうつむき加減に微笑んだ。今回もそうだ。生きていてくれたことがとても嬉しかった。だからこそ、苦しむ姿が怖かったのだ。リディアは顔を上げて、グレイに視線を向けた。
「グレイさん、さっき歌っている時に、またシャイア様が力を使われたのだけど」
「ああ、うん、見てたよ。何かあった?」
グレイは首をかしげるように、リディアの方をのぞき込む。
「シャイア様の力の先にフォースがいたんです。シャイア様、フォースのことを戦士って呼んでました」
「フォースが、いた?」
「戦士……?」
グレイが聞き返したあと、ルーフィスがつぶやくように言う。リディアは二人を順に見ると、はい、と、しっかりうなずいた。
「シャイア様は、フォースに何か力を与えていらっしゃるようでした。フォースがとても苦しそうに見えて……。あ、でも、フォースも何か探るようにまわりを気にしていたんです」
「シャイア様の力は、フォースのため、だったわけか。その力、どんどん強くなっているみたいだよね。それだけ力が必要になってきているのか、それとも距離が遠くなったからなのか」
グレイの言葉に、リディアは眉を寄せる。
「こんな風に感じられるって分かったから、今度シャイア様が力を使われたら、できるだけ追いかけてみようと思います。もしかしたら、何か分かるかもしれないから……」
そう言いながら、本当に自分にそんなことができるのだろうかと、リディアは不安に思った。だが、これまでシャイア神が力を使う時に自分の意識は無かったのが、最近は意識を残してくれている。力を感じるたびに正体を無くしていたティオも、普段と何ら変わらないくらいなのだ。だとしたらその残った分で、きっと自分にも何かできることがあるのだろうと信じたい。
「リディアさんがそういう努力をしてくれるってのは心強いよ」
サーディの言葉にグレイがうなずく。リディアは精一杯微笑んで見せたが、不安や寂しさまで隠せたとは思えなかった。だが、グレイは柔らかな笑みを返してくる。
「それで少しでも糸口を掴んでくれたら、書庫にある本を選ぶのにも、幾らかの見当がつきそうだね」
肩をすくめたグレイに、リディアは頭の下がる思いだった。グレイは書庫の本をすべて読むつもりでいたのだろう。壁が本の背表紙で埋め尽くされているような、あの書庫の本全部をだ。顔色ひとつ変えず、努力していると思えないほど自然にそれだけのことをしてしまえるグレイが尊敬できるし、それがフォースとの友情なのだろうと思うと羨ましかった。