レイシャルメモリー 1-05


 リディアの答えにスティアは目を見開くと、何気なくサーディの方を見た。同じようにユリアを追っていた視線がこちらを向く。スティアは頬をふくらませると、ツンと目をそらしてサーディに背を向けた。
「やだぁ。お兄様って趣味悪い」
「なんの話しだ」
 サーディの訝しげな声が返ってくる。スティアは一度大きくため息をついてから、サーディと向き合った。
「お兄様と結婚する人ってのは、メナウルの王妃様になるのよ?」
「なに当たり前のことを言ってる」
 鼻で笑ったサーディに、スティアは首を横に振って見せる。
「あの人、向いてないから」
「あの人?」
 サーディは、わけが分からないと言った表情でスティアを見つめ、ハッとしたように廊下の方を一瞬見やって指差した。
「んあっ? あの人って、あっ、あの人か?」
「あれ?」
 スティアは、サーディの慌てように意表をつかれたように、引きつった笑みを浮かべる。
「違った?」
「違うも何もっ、そんなこと考えたことも、……」
 サーディは、口をつぐんでもう一度廊下の方を見た。スティアが眉を寄せて、サーディを睨みつける。
「今考えてるでしょう」
「かっ、考えてないっ」
「嘘つき」
 スティアは、狼狽しているサーディに舌を出して背を向けた。リディアは笑い声を出さないよう、声をノドの奥に押し込む。
「もう、リディアったら。笑い事じゃないのよ? いっそのことリディアが結婚してくれればよかったのに」
 スティアの不機嫌な声に、サーディは朗笑した。
「残念でした。リディアさんには婚姻二十周年式典でこっちから申し出た時に、しっかり断られてるんだ」
「フラれて威張ってるんじゃないわよっ」
 スティアの強い声に、廊下から肩を揺らして笑いながらグレイが入ってきた。よぉ、と手をあげたサーディの方へと歩み寄る。
「あれは断ってもらうためにリディアを選んだんだよ。ねぇ」
 グレイの言葉に、サーディはうなずいた。
「そうそう。フォースの寝顔を身動きひとつせずにジーッと眺めている娘が、俺との縁談を断らないわけがないと思ったからね」
 そう言って苦笑したサーディを見て、スティアはリディアを茶化すように肩をぶつける。
「寝顔ですって?」
「あの時は、生きていてくれたのが嬉しくて……」

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