レイシャルメモリー 1-04
ライザナルへ行ってと口にしたことが、スティアにとって重荷になってしまっているのだ。それはリディアにも理解できた。でも。
「スティアに言われなくても、フォースは行ったと思うの。私にはライザナルを見てくるって言ったわ。それに、フォースがライザナル皇帝の子供に産まれたのは、スティアのせいじゃないでしょう?」
「それは、そうだけど……」
自分がしっかりしないことで、スティアをも苦しめてしまっている。こんな風に落ち込んでいるところを、人に見せてはいけないのだと思う。
「それと、きっと私のせい。私が降臨を受けてしまったから。フォースが戦に行くことが、我慢できなかったから。泣くことしかできなかったから……」
全部をフォースに任せて、自分で何もできなかったのが、一番大きな原因なのだろうとリディアは考えていた。自分が少しでも強くあることができたなら、きっとフォースは行かずに済んだ。メナウルにいて、一緒に乗り越える道も選べたかもしれないと思う。
今はまだ、何かあればすぐに涙になってしまう。でもフォースが迎えに来てくれた時には、少しでも強くなった自分を見てもらいたい。せめてフォースが心配して、自分を振り返らずにすむくらいに。一緒に同じ道に、いられるくらいに。
「リディア……」
心配げにのぞき込んでいるスティアに気付き、リディアはほんの少し涙の浮かんだ瞳で、微笑みを返した。
「大丈夫よ。私も信じて待たなくちゃね。その間に、やらなきゃならないことも、たくさんあるわ」
シャイア神がフォースに力を貸してくれているのなら、少なくともその間は細心の注意を払って、この降臨を保っていなくてはならない。その力で繋がっているのなら、フォースが何をしているのか、何を考えているのかをしっかり把握して、直接には何も出来なくても、グレイのように手助けをしたいと思う。
そしてもしもシャイア神と会話ができるのなら。フォースは紺色の瞳を持つ神の守護者だからこそ会話ができるのだと思っていたが、自分自身も巫女なのだ。声が聞こえるのだから、こちらの意思も伝えられるかもしれない。
怖がっている暇などない。泣いている時間も。
顔を上げたリディアの目に、お茶を持って入ってきたユリアが映った。サーディの前にお茶をひとつ置いて側まで来ると、スティアの前にひとつ、そしてリディアの前にもお茶を置く。
「グレイさん、もうすぐ来るわよ」
ユリアの言葉に、リディアは、はい、とうなずいた。ユリアは微笑みを浮かべ、神殿へ続く廊下へと戻っていく。その後ろ姿を目で追って、スティアがリディアの耳元に口を寄せる。
「あの人、変わった?」
「ううん。元々ああいう人なんだと思う」