レイシャルメモリー 1-03
「え? 見えた?」
「はい。シャイア様がフォースのために力を使ってくださっているのは分かったんですけど」
その言葉に、サーディとスティアは顔を見合わせた。スティアは気を取り直したようにリディアと向き合う。
「それ、グレイさんには話したの?」
スティアの問いに、リディアは首を横に振った。
「なんだかフォースがとても苦しげに見えて、怖くて……」
「シャイア様がお力を貸してくださっているのなら、アレは大丈夫だろう」
ルーフィスは、ゆっくりした口調で言うと、リディアをいつもの席へと促した。リディアはルーフィスに、はい、と小さく答えると、促されるままその席に落ち着く。
ルーフィスは、いつもと変わらず外に続く扉の前に立った。サーディも、チラチラとリディアに視線を送って気にはしていたが、次第に手元にある教義の本へと引き込まれていく。
リディアのうつむいた視界の中に、左太股横にある短剣のシルエットが浮かんでいた。リディアは思わずそこに手を乗せた。布越しの感触に、この短剣を拾い上げた時のことが思い出される。
あの時。この目で最後に見たフォースは、毒に犯されて青白く、しっかりと瞳を閉じて、意識もなかった。
でも、シャイア神の力の中で見たフォースは、腕の中でぐったりしていたフォースとは違う。どこかに座って背を丸め、胸を押さえてはいたが、あの時とは比べものにはならないほど生きているのだと実感できる。ほとんど回復していると聞いていたから、苦しそうなその姿が怖く感じたのかもしれない。
苦しんでいるのがフォースなのに、自分が負けるわけにはいかない。もしもシャイア神の力が少しでも手助けになるのならば、何もできないよりも巫女でいられることが、ずっと幸せなのだと思う。
「リディア?」
心配げに側に立ち、スティアが顔をのぞき込んでくる。リディアは一つだけ息をつくと、顔を上げた。
「ごめんなさい、もう大丈夫」
わずかだが決意の見えるリディアの表情に、スティアは逆に気が抜けたように肩を落とした。うっすらと涙ぐんだようなその瞳に、リディアは微笑みを向けて、隣の椅子を引く。スティアは一瞬だけ眉を寄せ、口元に無理矢理笑みを引き出してから、その椅子に腰掛けた。
「ごめんね。私が辛い思い、強要しちゃっているのよね」
スティアが机に向かったまま言った言葉に、リディアは首を横に振った。
「ううん、そんなことない」
リディアの声が聞こえなかったかのように、スティアは、ただ何もない机の表面をじっと見ている。