レイシャルメモリー 1-08
グレイは脱力した顔で、頭を抱えた。リディアは両手で口を覆い、スティアがサーディをキョトンとして見つめる。サーディはスティアに苦笑を返した。
「そんなに驚くなよ。みんな難しく考えすぎなんだ」
「そ、そうよね。ホントに難しかったら、お兄様が分かるわけないもの」
「なんだと、コラ」
ギャグだか本気だか分からない会話に乾いた笑みを浮かべながら、グレイは詩の書かれた紙の火、土、水の隣に、それぞれ国の名前を書き足しながら、ブツブツと読み上げている。
「風ってなんだろう」
グレイは、読み終えると誰に向けるともなくつぶやいた。その疑問に、スティアが眉を寄せて口を開く。
「パドヴァルの滝の下から天の国トルヴァールに続いているというのが、天近きってことなら、風はパドヴァルではないのよね」
「パドヴァルじゃなければ、あとはディーヴァしか残ってないわ。ここに出てこないけれど」
リディアの言葉に、詩の紙から視線を逸らさずにグレイがうなずいた。
「やっぱりそうなんだろうな。ディーヴァってのは、そのまま神を差してそうだから、言い換えた方が分かりやすそうだ。で、こうなる」
グレイは、今度はハッキリと口にしながら読み上げる。
ライザナルにシアネルの報謝落つ
神にシアネルの命届かず
シアネルの青き剣メナウルに落つ
メナウルにライザナルの粉飛び
「火の粉は火の粉だろ、ライザナルじゃなくて」
サーディの言葉に、グレイが苦笑を浮かべる。
「ほんとだ。やりすぎ。戦のことだ。いや、引っかけているということも考えられるな。ライザナルの攻撃って感じの意味か」
サーディがうなずいたのを見て、グレイは言い換えつつ先を続ける。
メナウルに火の粉飛び
ライザナルに神の影落つ
神の意志 剣形成し
青き光放たん
その意志を以て
神の影裂かん
「確か、エレンさんってシアネルの人だって言ってたよね?」
読み上げて一息置いたグレイの言葉に、リディアはしっかりとうなずいた。フォースとタスリルの店に行った時に、エレンはシアネルの巫女だったと聞いている。グレイは眉を寄せて首を傾げた。