レイシャルメモリー 〜蒼き血の伝承〜
第3部1章 傍側の呼吸
4. 気がかり 01


 イージスからライザナルでの話しを聞いて、今まで調べてきた話の内容が、グレイの中で一本に繋がった。
「やっぱり、そのマクヴァルって奴からシェイド神を解放できるのは、フォースだけってことか」
 神殿の居間兼食堂にいるのは、イージスとグレイの二人だ。静かなためか、グレイの声が余計に響いて聞こえる。
 グレイは、フォースが背負っている血の宿命を思って、大きくため息をついた。机をはさんで向かい側にいるイージスは、積まれた本をじっと見ている。
「こちらにそれほどの資料があるとは驚きでした」
「いや、当然だよ。ライザナルにあって始末されてしまったら元も子もないんだから」
 本に囲まれたいつもの席から顔を上げ、グレイが笑顔を向けると、イージスはホッと息をつきながらうつむき、頬を緩めた。ルーフィスとの話しの内容も合わせ、すべてが通じたことで、イージスの張っていた気が緩んだのだろうとグレイは思った。
 机の木目しか見えていないだろうその目を、安心したように細めていたイージスが、不安げに顔を上げる。
「先ほど上の騎士に聞いたのですが」
「バックスに? なに?」
 笑みを浮かべたままのグレイに、イージスは言いづらそうに視線を泳がせた。
「レイクス様と巫女様が、昨晩から一緒にお休みになっているとか」
「ああ、気にしなくて平気。リディアには護衛が付いているんだ。部屋の中にいるはずだよ」
 その言葉があまりにも意外だったのだろう、イージスはキョトンとした顔でグレイを見つめてくる。
「部屋の中に、ですか?」
「そう。強力なのがね。だから大丈夫」
 グレイがティオのことを口にすると、訝しげな顔をしつつも納得せざるをえなかったのか、イージスはため息をついて、再び目の前の机に視線を落とした。グレイは、ノドの奥で笑いながら言葉を付け足す。
「一度侵入されたから、対処方法も教えたらしいし」
 半分ふざけたつもりで言ったグレイに、イージスは、すみません、と、きちんとしたお辞儀を返した。予想外の反応に、グレイは肩をすくめる。
「それにしても、簡単に入られたモノだよな」
「警備がゆるくなったのは、薬のせいです」
 イージスの言葉に、グレイは目を丸くした。
「何か盛ったのか?」
「はい。あ、身体に残るような薬ではありませんのでご安心ください」
「残ったら困るよ」
 安心して大きく息を吐いたグレイに、イージスは苦笑してみせる。

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